令和という新しい時代に突入し、企業と個人の結びつきが大きく変わろうとしている。特に最近、多くのビジネスパーソンにとって印象的だったのが、トヨタ自動車の豊田章男社長の発言ではないだろうか。「終身雇用を守っていくのが難しい局面に入ってきた」――。経団連の中西宏明会長も、終身雇用について「制度疲労を起こしている」と語った。戦後の経済発展を支えてきた日本企業が、相次いで「終身雇用」という仕組みが続かないと明かしたのだ。昭和と平成を貫いてきた企業と個人の関係が曲がり角を迎えている。その先にある新しいオープンなカンケイとは。
本連載では、国内最大級の社員クチコミサイト「OpenWork(オープンワーク)」(旧ヴォーカーズ)を運営するオープンワークの副社長や、組織・人材コンサルティング会社・リンクアンドモチベーションの取締役を務める麻野耕司氏が、令和時代の新しい企業と個人の関係について解説する。連載1回目は令和時代の企業と個人の関わり方について。これまでとはどのように変わっていくのだろうか。
(聞き手/日経ビジネス編集部 日野なおみ)

2003年、慶應義塾大学法学部卒業。リンクアンドモチベーション入社。2010年、中小ベンチャー企業向け組織人事コンサルティング部門の執行役員に、当時最年少で着任。気鋭のコンサルタントとして、名だたる成長企業の組織変革を手掛ける。2013年、成長ベンチャー企業向けの投資事業を立ち上げ、全く新しい投資スタイルで複数の投資先を上場に導く。2016年、国内初の組織改善クラウド「モチベーションクラウド」を立ち上げ。国内HRTechの牽引役として注目を集める。2018年、同社取締役に着任。同年、ヴォーカーズ(現オープンワーク)副社長を兼任。国内最大級の社員クチコミサイト「OpenWork」を展開。著書『THE TEAM~5つの法則~』(幻冬舎)は発売1カ月で6万部を突破(撮影/竹井 俊晴、ほかも同じ)
令和の時代に入った直後、トヨタ自動車の豊田章男社長が終身雇用の限界に触れるなど、企業と個人の関わり方が大きく変わろうとしています。
麻野氏(以下、麻野):企業と個人の関係という点で、私は昭和型を「クローズな関係」、令和型を「オープンな関係」と捉えています。
これからの企業と個人の関係を理解するためには、まず社会全体の変化を捉える必要があります。昭和は右肩上がりの経済成長を達成した時代でした。一方で令和時代、企業は環境変化に対応することが、何よりも重要になるはずです。
日本経済そのものが、そしてそれぞれの企業の業績が伸びる時もあれば、伸びない時もある。伸びない時にどうやって耐えるか。その対策を企業側は迫られます。
企業を取り巻く環境の変化によって、企業と個人の関係はこれから大きく変わっていきます。というよりも、変わっていかなければなりません。
まずは、組織の人事制度を変えていく必要があります。昭和の時代は、「終身雇用」「年功序列」「新卒一括採用」が基本でした。ずっと右肩上がりの経済発展が続いていたので、企業は業績が成長し続けることを前提に個人を雇い続けることができた。
ここで企業にとって重要なのは、いかに個人に忠誠を誓わせるかということでした。そして個人は、企業に忠誠さえ誓えば一生保護してもらえたわけです。
昭和の時代は、長く安定的に雇用関係を続けたいと願う企業と個人の思惑が合致し、「終身雇用」「年功序列」「新卒一括採用」が成立していました。ただ、個人は一度、企業に就職すると、定年するまでは出てこない。そのため私は、これを「クローズな関係」と呼んでいます。
一方、令和の時代は、環境変化のスピードが激しくなるので、企業は定年まで社員を雇用するのが難しくなっていきます。3年前までは必要だった人材だって、今はもう必要じゃないということだってあり得ます。1人の人材を、新卒から定年まで雇用するのが極めて非合理的になっているのです。
企業にとっては、定年まで雇い続けるよりも、その時々の環境に合わせて人材を調達する「流動雇用」の方が都合がよくなっています。
それは、個人にとっては厳しい環境でもあります。
麻野:つらいのか、楽しいのか。両方の側面があると思います。終身雇用がなくなるということは、いつでも転職できるチャンスのある時代が来た、とも言い換えられますから。
昭和の時代には、新卒時代の就職活動で失敗すれば、その先に希望はありませんでした。多くの会社が新卒でのみ人材を採用していたので、中途でどこかの会社に転職することが難しかったためです。
一方で、今はいつでもチャンスのある時代になりました。定年まで安定した雇用が約束されるわけではないけれど、転職のチャンスも増えたので、本人の努力次第でいつでも未来を切り拓くことができる。そんな時代になったわけです。
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