それに対して他の政策が、どのくらい回答者の支持率を平均して上げるまたは下げることに寄与しているかを、この「飛行機プロット」は示している。図中の「飛行機」が、真ん中より右側を飛んでいる場合、その政策は、全体として自民党の政策よりも有権者の支持を得ていることになる。一方、「飛行機」が、真ん中より左側を飛んでいる場合は、その政策が、全体として自民党の政策よりも有権者の支持を得ていないことになる。なお、ここで言う「支持率」とは、選挙での実際の得票率とは別のものである。我々の分析では、回答者にどの「仮想」政党を支持するか選んでもらうことを通じて、各政策に対する支持率を推計していることに、留意する必要がある。

 「飛行機」の「翼」は、統計分析でよく示される「95%信頼区間」と呼ばれるものである。この「翼」が真ん中の縦線(=0)を含まない場合、その政策が自民党の政策よりも、「統計的に有意」に有権者の支持態度を変化させていることになる。逆に言えば、「飛行機」の「翼」が0を含む場合は、その政策に関しては、自民党の政策も他の政策も平均的には支持率に有意な差がなかったということである。

雇用政策は争点にならなかった

 では、「飛行機」が左右にあまりずれていない政策、つまり、有権者の判断にあたってあまり重要でなかった政策はどれか。その代表が「雇用政策」である。増加の一途をたどる非正規雇用者の待遇をめぐって国会で重要な論戦があったが、今回の衆院選挙では、有権者にとっての重要な争点ではなかったようだ。

 驚いたことに、「アベノミクス」の「第1の矢」と「第2の矢」である金融財政政策も重要な争点ではなかった。「大胆な金融緩和と機動的な財政出動によりデフレ脱却」(自民、公明)と訴えようと、「過度の金融緩和や円安、公共事業のバラマキを是正」(民主、維新、次世代)と訴えようと、「格差拡大をもたらす金融財政政策に反対」(生活、社民、共産)と訴えようと、有権者の支持態度を変化させることはなかった。

 大論戦となった集団的自衛権行使をめぐる問題も、一見すると、今回の総選挙では、有権者の政党支持態度に影響を与えなかったかのように見える。しかしこれは、集団的自衛権が争点とならなかったのではなく、各党の立場に対する有権者の支持が拮抗していたために、全体としては同程度の支持率を得たということである。

 本稿ではスペースの都合上提示しないが、実際に選挙で戦った各党の支持者別にグループ分けした分析をしてみると、それぞれのグループの集団的自衛権行使をめぐる問題に対する態度に、はっきりとした違いが見られた。これに対して、雇用政策や金融財政政策に関しては、グループごとに分けた分析をしてみても有意な差はほとんど見られなかった。「アベノミクスの成否を問う選挙」という報道があれほど多かったことを考えると、実に驚くべき結果といえる。

 自民党の政策と比べた場合に、統計的に有意な差を示した政策もある。まずは、消費再増税である。自公両党は「2017年4月に10%にし、軽減税率を導入」することを決めたが、それへの対案は、「当面は延期するが、一定の改革実現後速やかに実施」(次世代)であろうと、「期限を決めずに延期」(民主、維新、生活)であろうと、「中止・税率引き下げ」(社民、共産)であろうと、支持率を2~4%ほど上げることに有意に貢献している。

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