(写真:新華社/アフロ)
(写真:新華社/アフロ)

※2014年12月19日に「日経ビジネスオンライン」で公開した記事を再掲載しました。記事中の肩書やデータは記事公開日当時のものです。

 2014年衆院総選挙は、多くのメディア、政治学者、評論家の予想通り、自公連立政権の圧勝で幕を閉じた。

 今回の総選挙は、2年間の安倍晋三政権による経済・財政政策、「アベノミクス」に関して、政権与党が国民に信を問うための選挙であったという評価がある。一方、論争に欠ける選挙、争点がはっきりしない選挙であったという評価もあれば、憲法改正や集団的自衛権行使の問題など、政治や外交の枠組みを問う選挙であったという評価もあり得るであろう。

 では、有権者にとって重要な争点は、本当は何だったのか。本稿では、著者4人が選挙運動期間中に収集した世論調査データと最新の統計分析技術を用いることで見えてきた、驚きの「隠れた民意」について報告したい。なお、分析結果を早く知りたい方は、5ページ以降をお読みください。

有権者は公約をどのように比較検討するのか?

 公民、あるいは現代社会の教科書に書かれている民主主義における政治過程とは、おおむね次のようなものである。まず、選挙において、各党が様々な政策をパッケージ=公約(マニフェスト)として有権者に提示する。

 有権者は、各党の公約を比較検討し、最適な公約を提示していると思われる政党を選択する。有権者によって選ばれた政権党は、選挙の際に提示した公約に基づいて具体的な政策を作成・実施することに努める。その政策内容と効果をめぐって各党は国会で論戦する。そして、次の選挙において有権者は、政権党の実績、各党が提示する新たな公約などを材料にして、どの党が政権党として最もふさわしいかについて判断を下す。

 このような教科書的な政治過程が機能する大前提は、「有権者が各党の公約を比較検討する」ことであるが、実際のところ、有権者はどのように各党の公約を比較検討しているのであろうか。

 我々がこの質問を友人・知人にしたところ、最も多かった返事は、「各党の一つひとつの政策内容だけでなく、党首や候補者の人柄も含めて、『総合的に』判断している」というものであった。これは、ある程度予想された返事である。実際、無作為割り当て実験、自動顔認証技術などの様々な手法とデータを駆使した現代政治学の計量研究においては、有権者の政党支持が各党の政策とは全く関係のない要因によっても左右されることを示す論文が、数多く発表されている。

 また、党首や候補者の容姿、人柄、学歴、職歴、イメージ、地元とのつながり、などに基づいて有権者が投票先を決めているということは、様々な世論調査や政治学者による研究が、これまでも示してきたことでもある。

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