※この記事は日経ビジネスオンラインに、2014年5月8日に掲載したものを転載したものです。記事中の肩書きやデータは記事公開日当時のものです。

 女性の年齢別の労働参加率のデータ形状にみられる、いわゆる「M字カーブ現象」の緩和に伴い、女性の就業率が上昇していることは、近年、広く認識されているようだ。一方で、そうした「女性の進出が加速中」といった労働市場全体でみた傾向とは、いささか異なる分野が存在する。

 製造業に絞って就業者に占める女性比率をみると、過去20年間以上、一貫して低下傾向にある(図1)。実際に、確かに解消しつつある(マクロの)M字カーブに対して、製造業では、女性労働者は、絶対数でみても比率でみても、ともに減少・低下傾向を辿ってきた。このグラフが示す事実は、あまり知られていないのではないだろうか。

図1: 製造業の女性比率

 製造業において、女性比率が長期間にわたって低下の一途を辿ってきたという事実は、実は、日本の労働市場全体が、過去20年間に経験した大きな変貌の一端を映じたものと言える。以下では、日本の労働市場が、1990年代以降、現在にいたるまで、ゆっくりとその姿を変えてきたことを、複数の統計を用いて、明らかにしていきたい。その際、①女性、②新卒就職と転職市場、③賃金構造の3点に特にフォーカスを当てて、特徴を浮き彫りにしていく。

労働者400万人の部門間移動

 日本の就業者数の総数は、1995年以降、概ね6400万人前後で安定的に推移してきた。しかし、製造業・非製造業という部門別労働者数に着目し、就業構造の構成の変化をみると、大きなモメンタムが働いていたことが分かる。

 すなわち、90年代以降、製造業は400万人以上の雇用を削減し続けており、数字の上では、この400万人は、ほぼ全員が非製造業に吸収されたという姿となっている(図2)。このような大規模な労働力の部門間移動は、どのようにして生じたのか、その背景を考えることは経済学的見地からも、政策実務的見地からもインプリケーションを持つ。

図2: 製造業と非製造業の雇用者数

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