戦後を代表する経済学者、小宮隆太郎氏が10月31日に亡くなりました。小宮氏は2014年12月、日経ビジネスの特集「遺言 日本の未来へ」にて、日本の経済学、そして未来のリーダーへのメッセージを残しています。追悼の意を込めて、記事を再掲します。謹んでお悔やみ申し上げます。記事中の肩書は掲載当時のものです。

小宮隆太郎(こみや・りゅうたろう)
小宮隆太郎(こみや・りゅうたろう)
東京大学名誉教授。自身のゼミから、日銀前総裁の白川方明氏、現副総裁の岩田規久男氏と中曽宏氏、元大阪府知事の太田房江氏、元新日本製鉄社長の三村明夫氏などを輩出。実践的な経済学を標榜し、金融政策を巡って様々な論争に関わる。米スタンフォード大学客員教授、東大経済学部教授などを歴任。1928年11月生まれ。(写真:村田和聡)

 いつ頃からか、私の東大の元ゼミ生が日本銀行に入ることが増えましたね。前総裁の白川方明君もそうだし、岩田規久男君は今は副総裁ですか? 中曽宏君もそうですね。でもその前は全然うちから日銀に行かなかったんですよ。金融政策を巡って、私と論争してたのと関係あったんですかね。

 日銀も随分変わりました。以前、あそこは法学系の学者ばかりでね。実際の経済学をやってる人なんてほとんどいなかった。でも今は、現実の経済現象をしっかり観察して、それに理論を当てはめて政策を考えるような実践派が増えたように思います。私の様々な発言で方向が変わったとすれば、多少は意味あることをしたかもしれません。

 1960年頃、一橋大の都留重人先生が「日本の経済学者は経済ではなく、経済学を学んでいる。いわば経済学学だ」と批判されていた。私もそれに同調しました。現実の現象を見ずに理論だけ振りかざしても、実際には役に立ちません。経済学は自然科学と違い、実証実験ができない。だから実際の現象を分析するほかない。現実の観察とセオリー(理論)、どちらかだけを積み上げても意味がないのです。

 日本の伝統的な経済政策や、当時主流だったマルクス経済学流の理論を提唱する方々とはたびたび論争しました。そのせいか「通念の破壊者」「議論好き」などと呼ばれました。でもそれを恐れて発言しないようでは前に進めません。

 日本人に、自分と少しでも意見が違うと敵のように思ってしまう傾向があるのはなぜでしょう。互いに意見を言い、それをよく聞き、不明点をはっきりさせる。そして相互理解に達する。このことが、最も大事だと思います。

 これから海外の人との仕事は増えるでしょう。議論を恐れず、時には少数派になることを恐れず、積極的に背景の異なる人々と触れ合うのが大事です。

 「出るくいは打たれる」と言いますが、斬新な意見に対して逆風があるのは日本でも米国でも同じ。新しいことをする人は、みんな苦労しながら成果を上げています。間違ったら引っ込めればいい。袋叩きにあってもめげずに「人と違うこと」を考えてほしいですね。

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