不倫がどんなものか、自分で経験するとほんとうに身に染みていろいろなことがわかる。週刊誌やインターネットの記事を眺めて、他人の不倫をとやかく言っても、それは身に染みていないわけだから、ほんとうの意味はわからない。

 いまの時代は、言葉だけが歩いています。不倫にしたって、いまは言葉では糾弾されるけれど、昔のほうが内実は厳しかった。命がけです。見つかったら、市中引き回されて首をはねられたわけですから。

 ほんとうの恋愛は、してはいけないことをするときに生まれる。お見合いして結婚して娘が生まれて、というのは幸せかもしれない。それと、ほんとうの恋愛とは別。命がけで殺されるかもしれない、というのがほんとうの恋愛です。私は、何度もやってしまいました。夫と幼い娘を捨てて家を出て。だから、私は幸せになってはいけない。ほんとうの恋愛とはそんな代償を払うものですし、それが私の自分に対する戒めです。私は幸せになっちゃいけないって。

 でも、年老いてから、その娘がアメリカに渡っていて、現地で子供を産んで、その子供たちがさらに子供を産んで。いま、ひ孫が3人いるんです。みんな海外にいます。そして向こうから私を訪ねるようになりました。

幸せじゃないですか。

 そうね、不思議なものね。95歳まで生きるってそういうことなのかもしれない。毎日文章を書き、頻繁に法話をしています。たくさんのひとの悩みを聞く機会がたくさんあります。

亡き妻を思って泣き崩れる男たち

50代60代の男の人も来たりするんですか。

 来ますね。法話を聞きにきたその世代の男の人たち、多いですよ。男は、女みたいに自分の悩みを口に出して私に伝えたりしません。でも、悩みは伝わってきます。もう定年で職場を去らないといけない。でも、そのあとの人生の希望や展望が見えない。僕はどうすればいいんだろう。

 つくづく男は純情だと思います。歳を取っても変わりません。

 昔、体が丈夫だったとき、たくさんの信者さんを連れて巡礼に行きました。そのときに妻を亡くした男がいっぱいついてきました。みんな、道中ずっと泣いてばかりいるんです。何も楽しいことをしてやれなかったって、亡くなった妻の写真を持ってね。

そういう男性に、寂聴さんはどうお声をかけるんですか?

 慰めの言葉なんてかけるとますます泣き出すから、そっとしておくの。一方、同じ巡礼の旅で、夫を亡くした妻もけっこういるわけです。彼女たちも初日はめそめそしているの。でも、翌日になると道中一緒になった女たちできゃっきゃと笑って巡礼を楽しみ始めるわけ。あっという間に女は元気になる。それで、いつまでも泣いている男たちの肩をぽんと叩いたりするわけです。あんた、なんでいつまでもめそめそしてるの!って。

……50歳からの人生は、どううかがっても女性が主人公のような。

 女のほうがすぐに諦めて、今日と明日のことを考えますね。男は昔を振り返って泣いてばかり。男のひとたち、もっと楽しいこと、やりたいことを考えなさいな。

『95歳まで生きるのは幸せですか?』
『95歳まで生きるのは幸せですか?』

 老後はどう生きるべきか? 人生の始末をどうするか?「老後」と呼ばれるほど長生きできたとしたら、生きているだけで儲けもの。老人らしく生きる必要はない。自分らしく生きよう――。波瀾万丈の人生を送ってきた作家、瀬戸内寂聴さんに、ジャーナリストの池上彰さんが「老後の心構え」について聞く。超高齢社会を迎える日本で、長生きすることは本当に幸せなのか? 誰もが避けることのできない「老い」や「死」について考える。

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