ライフコーポレーション創業者で名誉会長の清水信次氏が亡くなりました。96歳でした。清水氏は、1956年にライフの前身となる会社を創業し、同社を国内有数の食品スーパーに育てました。追悼の意を込めて、日経ビジネス2011年11月28日号に掲載した記事を再掲します。謹んでお悔やみ申し上げます。記事中の肩書は掲載当時のものです。

(日経ビジネス電子版編集部)

(写真:村田 和聡)

従軍体験で植えつけられた国家不信と、闇市という商売の原点──。戦後66年、急拡大する競合を横目に、着実に歩みを進め盟主の座に。「復興を国任せにできない」。齢85にして、流通主導の世直しに動く。

 12月2日、日本の流通業に関わる人々の大結集を目指す新団体が誕生する。

 「国民生活産業・消費者団体連合会(仮称)」

 その設立趣意書では、こう問題を提起している。

 「日本には、経済団体連合会、商工会議所をはじめとして、業種業態に対応した数多くの団体は存在するが、残念ながら1億2600万人の生活、生命を守るための組織団体はいまだに存在していない」。日本経団連などの経済団体が、国民のために機能していないと言わんばかりの主張だ。

 この挑戦的な新団体を主導しているのが、ライフコーポレーション会長の清水信次だ。彼の名は、40代以上の経済人には広く知られている。1980年代、売上税(後の消費税)導入が議論になった時、「反対派の旗手」として中曽根康弘政権や経団連首脳と激しく対立し、関連法案を廃案に追い込んでいるからだ。

 その清水が今、新団体を立ち上げる意味は大きい。

 「政治家や官僚は(財政が)苦しくなるとすぐに増税を口にする。だが、復興費用などは違うところから捻り出せる」。清水はそう言って憚らない。そこには、製造業の論理ばかりを声高に代弁する政府への不信感が垣間見える。戦後経済を牽引してきたのは、製造業ばかりではない。消費者と接して、日本経済を根底で支えているのは流通業をはじめとするサービス業界だという自負がある。だが、政府は財政が苦しくなると、流通業者が直接の打撃を受ける消費税アップに走ろうとする。そんな国家に不信感を露わにして、舌鋒鋭く批判を展開する。

 そこに、反骨の企業経営者らが賛同している。牛丼チェーン「すき家」を展開するゼンショーホールディングスの会長兼社長、小川賢太郎は、新団体の世話人に名を連ねた。

 「我々第3次産業はGDP(国内総生産)の76%を占めている。なのに、これまでは製造業主体の経団連の陰に隠れて、発言や政策提言が弱かった」。そう見ている小川は、清水の呼びかけに呼応して、こう期待を寄せる。

 「日本が停滞している背景には様々な要因がある。彼はその本質をとらえて、勇気ある提言や発信を積極的にやってくれることだろう」

 国家に強く物申す経営者、清水。彼は戦後の闇市から身を興し、パイナップルやバナナの輸入を手がけながら、食品スーパー日本一への道を駆け上がっていった。過去に2度国政選挙に出馬し、落選したこともある。齢85になっても、新たな挑戦をやめようとはしない。

 彼をそこまで駆り立てるものは何か。その答えは、少年期から「国家の暴走」に翻弄されてきた清水の個人史の中にある。

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