創造的破壊を起こしていくには制度改革が重要とはいえ、既存のエリート層による制度改革にはどうしても限界があるのではないでしょうか?

 確かに、エリート層は本質的な変革を嫌い、現状維持を好みます。既得権益を維持したがるものですね。例えば、エジプトのムバラク政権が自ら変革することが期待できたでしょうか? 市民から始まった「アラブの春」はとても不確実性が高くて問題が多いですが、何もせずに待っていたら、20年経っても何も起こらなかったでしょうね。本来は、ボトムアップの改革が望ましいと思います。

日本はマクロ政策に頼りすぎる

日本は欧米へのキャッチアップ型の発展を終えた後、創造的破壊を起こせる全員参加型社会に向けての改革がうまくいかず、過去20年経済の停滞に苦しんできたように思えます。

 いくつかの要因があると思います。もっと開かれた経済への変革がうまくいくかどうかは、「どれだけ社会が『全員参加型』か」次第です。スターリン主義のようなモデルでさえも基本的な成長は可能なのですが、やがて息切れするのです。日本は第2次大戦後、多方面でそれ以前に比べればまずまず全員参加型の仕組みを築きましたが、部外者の目から見るとまだ問題が多いように見えます。

 まず政治制度が(参入障壁が高く)全く競争的ではありません。その結果、経済制度も競争力を失いました。自動車業界や電機業界のような国際的企業は別ですが、国内の経済が(インフラなど)独占的な企業に支配され、競争がなかったからでしょう。また日本は経営のプロよりは同族による経営が多く、企業統治が不十分です。ここは制度的な問題ですね。

 競争が激しい電機業界の調子が悪いですが、世界中の電機メーカーが「世界的な大変化」に巻き込まれて苦戦している状態です。ドイツでもアメリカでも同じです。これはソニーや他の日本企業だけの問題ではないのです。

 キャッチアップ型の時には、大企業を基盤にしてうまくやっていくことができました。投資をして、既存の技術に適応していけばよかったからです。しかし、米国のソフトウエアやバイオ技術、ナノ技術などのように動きが激しい業界においては、カギとなるのはベンチャーです。果たして国内の環境、経済制度が、新しいプレイヤーが入れ代わり立ち代わりやってきて、容易に資金調達ができ、必要な支援を受けられるものになっているかどうか。そして、一緒にアイデアを実現しようとあちこちからやってくるような人々を雇用できる環境を整えているかどうか。日本はおそらく、米国や他の国々に比べ、そこでつまづいているのでしょう。

日本では自民党の安倍晋三政権が「アベノミクス」として、金融緩和や成長戦略を打ち出しています。

 まずは推移を見なければいけません。今、世界中が不景気です。金融緩和は重要ですが、構造的な問題の方が大きいと思います。私見では、日本は昔から構造的な問題が本質なのに、マクロ政策に頼る傾向があるように思えます。国内で独占的な経済が続き、技術革新のダイナミズムを阻害しています。

 流動性を高めて政府支出を増やすだけではやはり限界があります。新規事業が生まれやすい環境を整備し、一握りの大企業が支配することによる弊害を、すべてのセクターでなくすことではないでしょうか。往々にしてベンチャー企業が技術革新の牽引役なのですから。

初めから理想的な制度を作った都市「チャーター・シティー」を作ってしまうという、ポール・ローマー米スタンフォード大学教授の提言について、どう思われますか。

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