技術がすべてを変えるカギです。過去30年、技術によりグローバル化が進み、技術依存型の社会になりました。技術革新のおかげで以前より多くの「スーパースター」が活躍できる土俵ができました。バスケットボール選手のマイケル・ジョーダンが数千万ドルを稼ぎ、そのジョーダンを広告に使った代理店社長が大儲けして何か問題があるでしょうか?問題は、とても裕福だからとジョーダンとその代理店社長の子女だけが最高の教育を受け、政治的実権を握り、例えば国が戦争する意思決定などをするようになることです。政治力を一部の人間が握る独占状態は望ましくない。

 すなわち、経済的な格差は大した問題ではないのです。重要なことは2つ、まず全員参加型の政治制度の実現による、政治的な平等です。これが最終到達点です。もう1つは経済的な「機会の不平等」を解消することです。全員が等しく活動できる環境作りが重要です。よその地域の子供たちと、同じ土俵で競争する機会すらない子供が大勢いるのが、今の米国です。町の中心部に生まれると、豊かな郊外に生まれた人と同じような機会に恵まれることがなくなってしまう。この機会の不平等は大問題です。経済的な格差よりも、機会の不平等のほうが問題です。もちろん、機会の不平等は経済的な格差と密接にかかわっているので、経済的格差は指標として注視しなければいけないのですが。

教育の平等が至上命題であるということですか。

 まったくその通りです。次のアインシュタイン、次のマーク・ザッカーバーグ(フェイスブック創業者)、次のセルゲイ・ブリン(グーグル創業者)がどこにいるかなど、誰にも分からないのです。もし、平等な教育機会を設けることができないとすると、言ってみれば我々は人口の10%にしか機会を与えないことになります。残りの90%に、ザッカーバーグやアインシュタインがいるのかもしれないのに。

長期的繁栄には全員を巻き込む制度が必要

貧困の削減に必要な条件は何でしょうか。制度改革でしょうか。あるいは、新しい雇用を作ることでしょうか。

 格差の原因として制度は大きいです。ただし、そのほかにも技術、グローバル化、人的資本(の質)に原因があります。原因は様々に絡み合っていますが、稼げる社会は質の良い人的資本に恵まれた社会です。教育の質が低いことが格差につながります。そして教育のまずさは制度に原因があることが多いのです。失業はその結果であって、原因ではありません。

 一番の解決策はやはり経済成長です。過去50年でそれを劇的に実現したのが中国です。1億人以上の人々が貧困から脱して中産階級になりました。インセンティブに欠け、不合理で収奪的で、経済的成功には制裁すら加えていたような経済制度を、少しずつですが全員参加型の制度に変えることで実現したのです。最初は、農業セクターで市場向けに生産を始め、次に都市セクターで、働いて稼ぐことができるようになった。結果として数百万もの人々が、30年前よりはるかに稼ぐようになった。次のステップは本格的に全員参加型の経済制度にすることと、政治制度を全員参加型にすることです。これからの課題です。

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