開教場所の条件は、各宗派によって若干異なるが、(1)宗門の寺院が少ない地域(同門寺院の縄張りを侵さないこと)、(2)人口が増加傾向にある都市周辺部(経済的に自立できる環境であること)である。
こうした条件が整った場所に新寺を建設する場合、宗門から助成金が下りる仕組みになっている。
開教制度は、寺に生まれたけれども、自坊を継げない次男、あるいは赤澤さんのようなそもそも寺を持たない在家出身者が、「一国一城の主」になれる機会でもある。
仏壇のない家庭がターゲット

日蓮宗の場合、宗が定めた開教地の1つに国立市エリアがあった。国立市の近年の人口動態は増加傾向にある。地方から職を求めて上京してきた若者が、生活基盤を安定させ、子供をもうけ、住まいを選ぶ魅力的な場所がこの国立エリアと言える。
「私がポイントにしたのは、ここ国立エリアでは一戸建ての持ち家率が低く、マンションが多いという点に着目したからです。つまり、布教のターゲットは“土地の人”ではなく、“新しくこの街に来た人”。端的に言えば、“仏壇を持っていない人”です。こうした寺との付き合いを持たない人が国立エリアには多く住んでいて、新しく寺をつくればきっと、集まってくれると踏んだのです」
布教のスタートは、現在の場所から2kmほど離れた賃貸の一軒家だった。玄関に寺の看板を掛け、リビングルームに段ボールで簡易祭壇をつくっただけの手作り感満載の寺。墓地もなければ檀家もゼロ、のスタートだ。

まずは寺の存在を知ってもらうため、政治家と同じように毎朝、国立駅頭に立ってビラを配り、辻説法を開いた。ところが足を止めて話を聞いてくれる人は皆無。ひと月の間、駅前に立ち続けて立ち止まってくれた人が1人いたか、2人いたか……。
「誰も相手にしてくれない状態でしたが、そのために修行を積んできましたから。不思議と精神的には満たされた状態でした。しかし、焦りはありました」
この頃、赤澤さんには生まれたばかりの長女がいた。
Powered by リゾーム?