全4595文字

 女性は、本能的に女性の厄介さを知っている。従って、女性上司にとって女性部下は“ライバル”に、そして女性部下にとって女性上司は“女王蜂”として受け止められ、結局、女性同士は組みたがらない。

 実際、私自身が関わったケースでも、女性のプロジェクトがなかなか成果に結びつかない根源的な要因は、ここにあることが多い。具体的には、ビジョンや戦略上の失敗というよりも、女性同士の相性の悪さや内部のマネジメントの機能不全が原因となっていることが少なくないということだ。「女性のことは女性が一番分かる」とばかりに、女性リーダーに女性部下の育成を一任したり、女性だけでチームを組んだりしても、現実は意外に上手くいかないのである。

組織は「感情を持つ人間」で構成されている

 企業は、効果的な女性部下の育成を考えて、意図的に女性上司の元に女性部下を配属する。しかし、“女王蜂”上司の思わぬ言動によって、女性部下は育たないばかりか、逆に潰されてしまう――。

 たとえ“理想的な”プランができあがったからといって、そのまま計画通りに人が動き、組織にプランがインストールされるかというと、事はそう単純ではない。現実に、企業が組織に新しい動きを生み出すことを狙って新しい制度やルールを設けようとする際につまづいてしまうのは、その設計においてではなく、導入や運用の部分であることが少なくないのである。

 なぜか――。それは組織を構成しているのが、嫉妬やエゴといった生々しい感情を持つ人間だからである。そもそも組織に帰属する動機も享受したい効用も、人それぞれに異なる。バラバラの動機を持つ人々を有機的に機能させるための共通の組織目標があるとはいえ、エゴや自律性を持つ人間が、まず獲得したいのは個人の効用である。従って、組織全体の合理性よりも、個人の効用を得ることの方を優先して判断し行動するのは当然なのだ。

 こうした個人の個別利害の話に加えて、そもそも組織には強固なイナーシャ(慣性)がある。言い換えれば、組織自体に保守的で変化を嫌う本能がある、ということである。

 人が新しいことを取り入れるということはこれまでの行動様式の変更を伴うことになり、誰しも正直しんどい。これまで組織内で成功してきた者であればなおさらだ。なぜなら、これまでの成功体験に基づいたやり方が否定され、今までとは違うやり方を強いられる事態になるからである。しかも、再び新しい成功者になれる保証はないどころか、よほどの自己変革をしない限り、むしろこれまで得てきたポジションや報酬を失う可能性の方が高い。従って、従来の成功者ほど大いに不利益を被ることになり、ゲームのルールを変えることに対して強く抵抗するのである。

 つまり、変化より安全・安定を好む人間の性向に加えて、従来の成功者(今の既得権者)は利益配分の変化を伴う新しいやり方を忌避するため、組織は本質的に変化を拒むようになるのだ。

 制度を導入し組織を変えていくことについては、常にこうした厄介さが付きまとう。戦略の策定と違って、行動様式や理念、風土といった極めてヒューリスティックなものを扱うため、数字やロジックだけでは的確に規定できないのである。

 個々人の嫉妬やエゴ、チーム内での相性の不一致、保守的・管理的なタイプのリーダーの存在、部門間の利害の対立――。こうした生々しい“人間”の部分を踏まえた上で、現実的にどう人を動機づけていくかを工夫しない限り、新しい制度の導入も風土改革も、もちろん女性の活用やダイバーシティも、全て上手くいかないのである。