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※この記事は日経ビジネスオンラインに、2014年10月10日に掲載したものを再編集して転載したものです。記事中の肩書きやデータは記事公開日当時のものです。

【登場人物】紹介

老教授
米国の大学院でドラッカーの教え子として直接指導を受け、その後長くドラッカーの同僚でもあった日本人老教授。専門は組織マネジメント論と組織イノベーション論。数年前に定年退職し、静かに日本で暮らしている。執筆の傍ら若き経営者やマネジャーを自宅に招き、相談に乗っている。対話を通じてドラッカーのマネジメント理論を分かりやすく教え諭し、マネジャー本人に気付を与えるスタイルが、多くの経営者の間で密かに支持されている。

〈悩める〉マネジャー
大手企業の40歳代管理職。将来を嘱望され、トントン拍子で昇進してきたが、突如300名規模の地域事業本部の責任者に任命される。都会の洗練されたオフィス環境から一転、地方の事業所を拠点に、組織の舵取りをする中で、部下とのコミュニケーションやトラブルの対応、社内で発生する様々な問題に日々頭を悩ませている。ドラッカーのマネジメント論に関心はあったものの、じっくりと書籍を読んだことはない。知人から老教授を紹介され、月1~2回の東京本社への出張のタイミングで、教授の書斎に相談に訪れるようになった。

(前回の相談内容はこちらから)

マネジャー:先生、早速ですが、今回は「イノベーション」についてお話を聞かせてください。

老教授:今回は、テーマが明確のようですね。

マネジャー:ここ数年、我が社でも「イノベーション」「新事業の創造」ということが盛んに言われています。人事評価項目にも「イノベーション」という言葉が使われていて、社員にとっても、いわば生活にかかわる重要テーマです。

老教授:多くの会社で「イノベーション」はますます重要なキーワードになっていますね。

マネジャー:しかし、です。お恥ずかしい話ですが、先日も部下と食事をしながら話していて、この「イノベーション」の定義や意味について私自身も、同僚たちも明確に語れないことに気付きました。難解で冗長な学術的定義ではなく、「イノベーションとは、つまりこういうことだ」という共通イメージを社内で持てていない。何か実体のつかめない「概念」に日々追われている感じです。

老教授:健全な疑問だと思います。「イノベーション」という言葉を聞くと、どのようなことを連想されますか?

マネジャー:独創性のある新技術開発や、インパクトの大きい新事業の創出、大規模なM&Aというイメージがあります。

老教授:なるほど。話されていて、何か違和感はありますか。

マネジャー:何か、しっくりきていません。我が社では、「イノベーション」の課題や案件は経営上層部の判断で決まり、現場社員に落ちてくる段階ではもはや「業務」「作業」になっています。社員も、大きな投資を伴う仕事にかかわること自体を「イノベーション」と捉えている節があり、「一発大きなホームランを狙える」プロジェクトや商材を追い求める風潮があります。これで本当に「イノベーティブな組織」と言えるのか。その答えが自分でもまだ見えないのです。

「イノベーション」は技術革新に限らない

老教授:なるほど。実は、多くの会社で思われているより、本質的な「イノベーション」の定義はもっとずっとシンプルです。端的に言えば、イノベーションとは、「資源を、これまでより生産的にすること」なんです。

マネジャー:資源を生産的にすること、ですか。ここで言う資源とは何を指しますか?

老教授:もちろん、人的資源が第一にありますよね。それ以外にも、会社の持つ情報、知財、施設、機械、商品ラインナップ、情報技術、顧客基盤など、注意を向ければ、社内は「資源」に溢れています。イノベーションとは、それらの資源が新しい価値を生み出せるように手を打つ仕事です。