こうして主人公の批判を書くと、ぼくの気持ちは暗くなる。

資産やセンスや教養の面では天と地ほどの隔たりがあるとはいえ、しかし、悪い面に限っては、ぼくは彼と同じなのだ。

吐きまくる人

ぼくは自分の考えや感情を、本当の希望や判断を、ずっと押し殺してきた。
通じるはずのない言葉を口にするなんて、馬鹿げている。世間を知らない若者のやることだ。笑顔とお愛想で適当にお茶を濁すのが、大人の態度ってもんだ。
だいたい「自分の考え」「自分の感情」なんて言うけれど、ひとに言うほどの価値はあるのか? 「自分の希望」を押し通すだけの、自信があるのか? 才能は? 成功の目算は?
何もないなら、黙っていろ。

そのとおりだ。ぼくには、才能も自信も何もない。やはり黙っていたほうがよさそうだ。黙って……黙っていれば、どうなるのか?

ぼくは倒れる。
身体も精神もストレスに弱いところ、そんな情けない面も、ぼくはデ・ゼッサントと同じだ。
ぼくは数年おきに、一日中、吐きまくる。家にいるときも、外出中のときもある。倒れて、吐き続けて、ついに救急車で運ばれたことも何度かある。

それでもぼくは、本当に言いたいことは言わず、やりたいこともやらず、ただ、日々をやり過ごしてきた。
どうせ通じるわけがない、できるはずがない、できないことを望むのは馬鹿げている、それでも押し通すほどの自信もない……。
まったく、金もなく、センスもなく、教養もない、否定面だけのデ・ゼッサント!

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