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老教授:今おっしゃったことを提供していけば、事業は成功していくと思いますか。

マネジャー:うーん、確かに、このような定義では、もはや事業の本質を語れなくなっているのも事実です。ライバル企業も同様のマーケットで同様のサービスを展開し始めています。そんな中で、何が我々の事業の軸になるか、見えなくなっています。

老教授:ドラッカーは、このように言っています。

「自らの事業は何かを知ることほど、簡単で分かりきったことはないと思われるかもしれない。鉄鋼会社は鉄をつくり、鉄道会社は貨物と乗客を運び、保険会社は火災の危険を引き受け、銀行は金を貸す。しかし実際には、『われわれの事業は何か』との問いは、ほとんどの場合、答えることが難しい問題である。分かりきった答えが正しいことはほとんどない。(中略)企業の目的としての事業が十分に検討されていないことが、企業の挫折や失敗の最大の原因である。」
(「マネジメント」より)

マネジャー:なるほど…事業の定義とは、まさに事業の目的ということですね。そして、第2・第3の、顧客は誰で、どんな価値を買うか、という問いについても、同様に答えるのが難しいですね。営業としては、売れる所には積極的に売っていきたいというのが本音です。

老教授:「セリング」の発想でいけばそうでしょう。しかし、必要なのは「マーケティング」です。そもそも自分たちの顧客はどんな人たちで、どんなことを価値として買うのか。そこから洞察しなければいけません。ドラッカーはこう言っています。

「企業が売っていると考えているものを顧客が買っていることは稀である。」
(「創造する経営者」より)

マネジャー:我々が「売っている」と考えているものを顧客はもはや買っていないのかもしれない…。我が社でもあてはまりそうです。しかしやはり、「顧客は誰で、何を買っているか」という問いはなかなか答えるのが難しいです。

老教授:多くの会社の幹部職の方々も、「難しい」と言います。しかし、冷静に考えれば、事業において、「顧客」「顧客にとっての価値」の定義が曖昧なのは、危うい状態です。ここが曖昧だと無駄な投資も生まれますし、適切な組織体制も組みにくい、さらに人材の育成方針もぶれます。

マネジャー:これらの問いについて現場でじっくり話し合い、自分たちで納得のいく答えを出すことが先決ですね。それが曖昧だと、いくら営業プロセス管理を厳密にしても、効果が薄そうです。

老教授:あなたがこの2カ月で築いている「対話を土台にしたマネジメント」を実践すれば、答えが見えてくると思いますよ。

マネジャー:先生、ありがとうございます。現場で話し合いながら、「3つの問い」についての我々の答えを探ってみます。