※この記事は日経ビジネスオンラインに、2014年9月8日に掲載したものを再編集して転載したものです。記事中の肩書きやデータは記事公開日当時のものです。

【登場人物】紹介

老教授
米国の大学院でドラッカーの教え子として直接指導を受け、その後長くドラッカーの同僚でもあった日本人老教授。専門は組織マネジメント論と組織イノベーション論。数年前に定年退職し、静かに日本で暮らしている。執筆の傍ら若き経営者やマネジャーを自宅に招き、相談に乗っている。対話を通じてドラッカーのマネジメント理論を分かりやすく教え諭し、マネジャー本人に気付を与えるスタイルが、多くの経営者の間で密かに支持されている。

〈悩める〉マネジャー
大手企業の40歳代管理職。将来を嘱望され、トントン拍子で昇進してきたが、突如300名規模の地域事業本部の責任者に任命される。都会の洗練されたオフィス環境から一転、地方の事業所を拠点に、組織の舵取りをする中で、部下とのコミュニケーションやトラブルの対応、社内で発生する様々な問題に日々頭を悩ませている。ドラッカーのマネジメント論に関心はあったものの、じっくりと書籍を読んだことはない。知人から老教授を紹介され、月1~2回の東京本社への出張のタイミングで、教授の書斎に相談に訪れるようになった。

(前回の相談内容はこちらから)

マネジャー:先生、今回もどうぞよろしくお願いします。

老教授:またお会いできて嬉しいです。しかし、今日は少しお疲れのように見えますが。

マネジャー:思い通りにいかないことも多くて…。全社の業績数字もかなり厳しくて、いろいろ現場にも締め付けがきています。

老教授:大変なご苦労でしょう。これまで同様、まずはマネジメントに関するお悩みを率直にお話しください。

ルールの締め付けで業績は上がるのか

マネジャー:はい。先生から「マネジメント」の原則を教えていただいたことで、職場の雰囲気は確実に良くなっています。しかしやはり、会社は「短期」で結果を見ます。全社的に業績も芳しくない中で、「管理」をより一層厳格にやれ、というプレッシャーが強まっています。

老教授:具体的にはどのようなことでしょうか。

マネジャー:営業のPDCA管理、営業プロセス管理をより厳格にしていけ、ということです。営業行動管理の研修受講、営業支援システムの機能強化、情報入力のルール化、など矢継ぎ早に「打ち手」が現場に下りて来てそれに対応するだけでも手一杯です。

老教授:ますます目の前の業務が忙しくなりそうですね。

マネジャー:間違いなく業務負荷は増えます。とはいえ、無駄ではないので、割り切ってやろうとは思っていますが…。

老教授:その情報化やルール厳格化の先に、何を目指すのでしょうか。

マネジャー:こういう状況ですから、当然、数字の回復です。

老教授前回お話しした通り、数値が目的化するのは危険です。視野を広く持った方がよいでしょう。唐突ですが、そもそも企業活動の目指すべき目的は何だと思いますか。

マネジャー:目的ですか…。社員の雇用を守る、社員の家族の生活を守る、社内外のコミュニティーを維持する、顧客や株主の期待にこたえる、といったことでしょうか。

老教授:それらは全て、「目的達成によって」得られるものです。誤解を怖れずに言えば、雇用すること自体も会社の目的ではないはずです。雇用自体を目的としてしまうと、かえって重要な点を見落とします。

マネジャー:では、会社が目指すべき本質的な目的とは何でしょうか。

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