アイデアは「実現(Implement)」されて、初めて周囲からイノベーティブと評価される可能性が出てきます。すなわち、創造性とはあくまでイノベーションをゴールとするプロセスの出発点に過ぎず、イノベーション成果を得るには、まずアイデアが「実現」される必要があるのです。

 この点に注目したのが、米ワシントン大学のマーカス・バエアーが、2010年にAMJに発表した論文です。バエアーはこの論文で、企業内のクリエイティビティーの高い人(発案者)が、さらにそのアイデアを「実現化」するために、何が必要かを研究しました。バエアーは、そのためには発案者に2つの条件が必要だと主張します。

 第1に「発案者の実現へのモチベーション」です。これは言うまでもないでしょう。例えば、「アイデアを実現まで持って行けば、上司に評価される」「給料に反映される」と発案者が期待していれば、当然実現への意欲は高まります。

 しかし意欲だけ高まっても、本人にその力が備わっていなければ実現はできません。そこでバエアーが注目した第2の条件は、 その発案者の「社内での人脈力」です。しかも、「その人脈は『強い』ものでなければならない」という主張なのです。

 いくらクリエイティブな人でも、アイデアを実現まで持って行くには、社内の多くの人の賛同を得なければなりません。組織が大きくなるほど、稟議書を何カ所も通す必要もありますし、根回しも必要です。ここで発案者が社内で強い人脈を張り巡らしていれば、それは大きなアドバンテージになります。社内に強い繋がりの人を多く持っていれば、彼らがサポーターとなってくれるので、アイデアが実現にたどり着く可能性は高まるからです。

 この考えを基に、バエアーは米国を本拠とする巨大農産品加工企業の531人の従業員と111人の上司からデータを収集し、統計分析をしました。その結果、予想通り「従業員の「創造性の高さ」→「アイデアの実現」の関係は、その人が(1)実現へのインセンティブを強く持ち、(2)社内に強い人間関係を多く持っている場合にのみ、大きく高まる」という結果を得たのです。

足りないのは「創造性」か「実現への橋渡し」か

 これら一連の研究結果は、日本企業にも重要な示唆があると私は考えます。

 日本のイノベーションに関する議論の多くは「創造性」と「イノベーション」を混同しているので、結果として一辺倒な処方箋が示されがちです。しかし「創造性の欠如の問題」と「創造性から(イノベーションのための)実現への橋渡しの欠如という問題」は、まったくの別物なのです。

 それ以上に重要なのが、「創造性」に求められる要件と「創造性から実現への橋渡し」の要件が、まったく真逆なことです。ペリースミスらの研究が示すように、そもそも人がクリエイティブになるには「弱い人脈」が重要です。しかし、いざ創造的なアイデアを出したら、それを社内で売り込むため、むしろ「強い人脈」を多く持つことが求められます。

 強い繋がりと弱い繋がりに逆の効果があることは経営学では以前から主張されていたのですが、バエアーのAMJ論文はこれをイノベーション・プロセスの文脈で浮き彫りにしたのです。

 ここまでの議論をまとめると、日本企業に向けての示唆は3つあると私は考えます。

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