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マネジャー:確かに、そうかもしれません。この仕事から目を背けて、現場業務にはまりすぎると、気づいたら組織全体のバランスが崩れていて、トラブルやミスコミュニケーションが至る所で発生している、ということがよくあります。

老教授:もちろん、マネジャーでも、現場の業務を一部担うことはありえるでしょう。プレイングマネジャーがいけないわけではありません。マネジャーにしかできない仕事には責任をもって十分な時間を割かなければいけないということです。

マネジャー:なるほど。5つの仕事は、いずれも、「人」に関することが多いですね。コミュニケーションや動機づけ、人材育成という言葉が出てくるので。

現在だけではなく、未来を創る仕事

老教授:そのとおりです。ドラッカーの関心は一貫して、「人」にありました。マネジメントの力により、人がいきいきと仕事をする状態が生まれ、その結果として、組織や事業が長期にわたって成長・発展していくと考えたのです。彼は、このようなことも言っています。

「マネジメントとは、事業に命を与えるダイナミックな存在である。そのリーダーシップなくしては、生産資源は資源にとどまり、生産はなされない。」 (「現代の経営」より)

マネジャー:経営学者から「命」という言葉が出るというのも新鮮ですね。

老教授:これは、今から約70年前に書かれたドラッカー最初の体系的なマネジメント書の冒頭に書かれた言葉です。生産資源とはまさに「人」のことです。命が与えられるとは、まさに長く生き続け成長することを意味しています。目的を共有し、動機づけ、コミュニケーションし、チームをつくり、人を育てていく。そのようなマネジャーのリーダーシップにより、事業が生産的になり「命」が宿ると言っています。

マネジャー:なるほど、マネジメントが人を活かすということは、組織の未来への投資でもあるのですね。

老教授:そうです。ドラッカーはこのようにも言っています。

「あらゆる組織が三つの領域での貢献を必要とする。すなわち、(直接的)成果、価値、人材育成である。これらすべてにおいて貢献がなされなければ、組織は腐り、いずれ死ぬ。したがって、この三つの領域における貢献を、あらゆる仕事に組み込んでおかなければならない。」 (「現代の経営」より)

マネジャー:業績的な成果、新しい価値の創造、そして人材育成。これら3つのバランスを意識して仕事を設計することで、組織は長く発展していく、ということでしょうか。理想としては分かったつもりでも、ついつい「現在の利益」を優先してしまうのが現実という気もしますが…。

老教授:ドラッカーも強制しているわけではありません。しかし、3つの貢献を仕事に組み込んでいかなければ、すなわち直接的な業績貢献以外の活動も評価していかなければ、今、あなたが率いているその組織は、遅かれ早かれ行き詰まりを見せますよ、と警鐘を鳴らしているのです。