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マネジャー:そういう意味では、部下たちの協力により、そのような組織になるための入り口に立てた、ということでしょうか。

老教授:そうだと思います。「役割」「責任」を認識した人間というのは、自分たちの知識資本を活用し、上司の想像を上回る仕事をしてくれるものです。楽しみです。

マネジャーにしかできないこと

マネジャー:先生、それでもやはり悩みというか葛藤があります。今は良い状態になりつつありますが、時間がたてばまた元に戻ってしまうのではないかと。問題が起きれば、また「対処療法的」に指示と命令を飛ばし、場合によっては、「いいよ、俺がやった方が速いから」という自分に戻るような不安があります。

老教授:いわゆる「過度なプレイングマネジャー」に戻ってしまうという危機感でしょうか。多くの企業で、マネジャーが、ついつい現場業務に手を出しすぎてマネジャーとしての仕事に集中できないという悩みを抱えているようです。あなたは、それはなぜだと思いますか。

マネジャー:やはり、業務が多すぎて、忙しく、人手も人材も足りないからではないでしょうか。

老教授:私は、そうではないと思います。誤解を恐れずに言えば、「マネジャーは、マネジャーにしかできない仕事が何かを知らないから、それ以外の仕事に手を出し始める」のだと思います。そして、マネジャーがマネジャーにしかできない仕事をしていないから、現場はどんどん忙しくなっているとも言えます。

マネジャー:「マネジャーにしかできない仕事」ですか…。恥ずかしながら、それが何か、まだ見えていないのですが。

老教授:全く恥ずかしいことではありません。そのようなことは、機会がなければ学んだり、気づいたりすることはないのですから。ドラッカーの経営理論が多くの人に読まれているのも、この「経営者やマネジャーの仕事」を改めて整理したいと思っている人が多いからです。ドラッカーは、マネジャーに共通する仕事として、このように述べています。

「マネジメントには基本的な仕事が五つある。第一に、ビジョンと目標を設定する。第二に、組織する。第三に、チームをつくる。そのために動機づけ、コミュニケーションをはかる。第四に、(成果を検証し)評価する。第五に、自らを含めて人材を育成する。 (「マネジメント」より)」

マネジャー:なるほど…。これらは確かに、マネジャーの仕事かもしれません。しかし、本当にこれだけやっていれば足りるものでしょうか。

老教授:そこです。まだあなたは、これら5つの仕事がどれだけ重要で、どれだけ時間のかかることか、十分に理解できていないようです。先ほどあなたが話されたように、組織のビジョンや目標がずれないように話し合い、人とコミュニケーションし、動機づける、といった仕事は相当に時間のかかる仕事ではありませんか。

マネジャー:確かに、想像以上に時間がかかることを、身をもって経験しました。

老教授:しかし、それなりの効果はありましたね。メンバーが自律的に動き、自ら成果をあげていくようにするには、これら5つの仕事にマネジャーが集中して取り組むことが不可欠です。そうすると、他のことに時間はなかなか割けません。