モチベーションは何か?

安西:モチベーションでも差がでるでしょう?

後藤:日本では、他者との競争意識が強く、モチベーションを誘う際にもそこを利用することが多いです。しかし、アメリカでは、自分で決めた目標に対してどうだったかという絶対評価での判断やモチベーションの仕方が重要です。

安西:相対評価より絶対評価ですか。それが尊重されるから、空手に人が集まるのでしょうね。

後藤:海外で空手が人気のある理由として、精神性を掘り下げることを求められるからというのがあると思います。戦う前後に相手に礼をする。相手を倒してもガッツポーズなどはしない。これは武道独特の考えです。また、武道だけに限らず、日本文化はすべて心の方が大切と考えられています。海外にはそういう部分に共感をする人たちは多いです。

日本における空手はハイコンテクスト

安西:歴史や文化背景の違いからも色々と説明できそうですね。

後藤:空手は琉球王国時代に中国拳法の影響も受け沖縄本島で発達しました。この頃は秘密裏に行われ、口伝と実技のみでごく少数の弟子にしか教えず、多くの技は型の中に織り込まれました。その後、日本における空手指導は、練習体系の合理化は進んだものの、上下関係は依然残っており、先生から教えられる内容は絶対という考えの人が多いです。また全てを教えず、そこから感じ取ることが大事と考えます。このような理由から日本の空手の世界においては、暗黙知を重視するハイコンテクストなコミュニケーションに依存する傾向があります。

安西:一方、米国はローコンテクストであるということですね。

後藤:ええ、先ほど空手の精神性が海外で人気の出た理由と言ったので矛盾するようですが、やっぱり小が大を倒すのはとってもわかりやすい。動きも派手なのでカッコいい。教える上でも、明確でシンプルな表現でないと理解してもらえない。論理の飛躍も好まないので、最強も求めない。米国ではチャンピオンはあくまでもその競技でのNo.1です。逆に日本人はその論理飛躍する部分にロマンを見出しているのかもしれませんね。

論理性が必要

安西:でも、武道の上下関係を嫌がる人もいるでしょう。

道場外では上下関係よりも仲間としての関係が重要

後藤:海外では、上下関係があまりないです。そのため極真の海外支部では黒帯以上とそれ以下に分類し、段位毎に呼称を決めています。初段~二段は「先輩」、三段~四段は「先生」。そして五段以上は「師範」です。この辺は明確にしておかないとすぐに呼び捨てにされます(笑)。武道の礼儀などを根本的に理解していないので、その説明を必要とします。なぜ稽古や組手の前後に挨拶をするのか?なぜ稽古の後に皆で掃除をするのか?

安西:今の日本でそれらが十分に理解されているとも思い難いですが、米国人にとっては全く勘がつかないことなので、行為の一つ一つを説明しないといけないのですね。

後藤:はい。解らないことに対してはすぐ質問します。そこに論理性がなければ理解してもらえません。日本では、これがルールだから、私もこう習ったからと説明すればそれで済むことが多い。でも、米国では理にかなった説明でなければ理解されないし、他の流派や格闘技と比較してなぜ違うのかも質問されます。