※この記事は日経ビジネスオンラインに、2011年10月5日に掲載したものを再編集して転載したものです。記事中の肩書きやデータは記事公開日当時のものです。

 今回は、日本文化のシンボルと外国人がイメージする分野でのメソッドが、海外でどのようにローカライズしながら受け入れられているのかをテーマとしたい。空手をとりあげる。

 流派がさまざまにあるが、米国の極真会館の立ち上げ時に尽力し、いろいろな文化の人間を指導してきた後藤芳輝氏にインタビューのお相手になって頂いた。

空手には世界の統一的な大会がない

安西:まず米国の極真会館はどういう位置にあるのですか?

後藤 芳輝氏
1996年にニューヨーク道場指導員に抜擢され渡米。数々の国際大会で実績を残す。NY道場師範代として3000人以上の生徒を指導し、米国代表選手も多数輩出。また世界各国での大会やイベントにも多く参加し、海外メンバーとの親交を深める。その傍ら、MBAを取得し、大手日系商社に勤務。米国における日系自動車メーカーの海外生産や新規進出のサポートも経験。2009年に帰国し、貿易業に従事。城西世田谷東支部所属。三段。

後藤:本部直轄道場がマンハッタンにあり、日本の総本部と世界各国の支部の窓口となる国際部があります。1996年に第一回北米空手道選手権を開催。1999年には南米地区も含めたアメリカズカップ(現:オールアメリカンオープン)へと拡大。現在では毎年世界20カ国以上から代表選手が参加する、世界最大規模の空手道選手権の一つへと成長しました。

安西:それでは、一般的なところからお伺いします。空手と柔道で何が異なりますか?

後藤:柔道と違い、世界で統一の大会や団体がないことでしょう。数多くの流派があり、それぞれ稽古の体系や試合ルールが異なります。また町道場レベルが多く、空手人口の把握が困難です。世界で3千万とも6千万人とも言われるのですから。

安西:地域により組織の仕組みに違いはありますか?

後藤:日本で空手は武道です。流派ごとに組織、指導体系、大会が行われています。それがヨーロッパになるとスポーツとしての要素が強く、国からの認可の元に協会や連盟を作り、それをベースに活動しています。ただ、国はあくまでも空手としか見ていないので、流派に対する意識は低いようです。アメリカは国との関わりが一切ありません。そのため大きな組織はほとんどなく、大半は独立した町道場です。

NY道場では人種、年齢、性別を超えて稽古を行う

安西:どうして空手が海外で普及したのですか?

後藤:戦後、日本に駐留した米軍兵が空手を習って、米国内で広めたのがきっかけです。ヨーロッパへは1960年代以降に日本の空手指導員が海外へ派遣され、普及されていきました。

安西:だからヨーロッパは組織化が進んだのでしょうね。

米国の空手は精神面を重視

安西:米国の空手と日本の空手の間に、大きな違いとして何がありますか?

後藤:まず、強さに対する認識ですね。日本人は空手を習うことに対して肉体的な強さを求める傾向が強いです。特に極真空手の場合、「地上最強のカラテ」をキャッチフレーズにしていた時期があるので、肉体的強さへの追求や勝負に対するこだわりが強い。肉体的鍛練を通して、精神面も鍛えるという考えです。

安西:アメリカは?

後藤:銃社会なので誰が最強かという意識はほとんどありません。いくら肉体を鍛えたところで銃やナイフを持った相手に敵うわけはなく、肉体的強さの追求というよりも、どんな状況でも対応出来るような精神面に重きを置いている人が多いです。そのために肉体を鍛えることも大事という考えです。

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