さて、ヘッドの論文は2001年までのデータを使っています。ではインターネット取引が充実している現在でもやはり距離の影響はあるのでしょうか。実は、インターネット取引も距離の影響を受けやすい、という研究成果も得られています。

 カナダ・トロント大学のベルナルド・ブラムとアヴィ・ゴールドファーブが2006年に「ジャーナル・オブ・インターナショナル・エコノミクス」に発表した論文では、1999年末から2000年3月までに米国と他の国の間で行われたインターネット上のデジタル製品・サービスの取引量と各国の距離の関係を統計分析しており、その弾性値は1.1となりました。先のヘッドの研究の弾性値(0.9~0.95)よりもむしろ大きな値なのです。インターネット取引だから距離の影響を受けない、とはいえないようです。

世界はフラット化していない

 さらにグローバル化のパターンについても、新しい知見が出てきました。それは、「グローバル化はフラットか、スパイキーか(フラットの逆で、ギザギザしているという意味)」という視点です。

 最近は、モノ・カネ・人などが世界中のあらゆる国・地域でまんべんなく行き渡ることを、「フラットな世界(Flat World)」という言葉で総称することがあります。この言葉は、ジャーナリストのトーマス・フリードマンが2005年に発表した著書で使い、今や世界中で使われています。耳当たりもいいので、日本のメディアでも使われるようです。

 しかしこれに対して、多くの経営学者(経済学者)たちは、フリードマンのこの感覚的な主張を批判しています。先のゲマワットがまさにそうです。ゲマワットは先に述べたような傍証から世界はセミ・グローバリゼーションにあり、フラットになどに全くなっていない、と述べます。UCLAの国際経済学者エドワード・リーマーも、2007年に「ジャーナル・オブ・エコノミック・リタラチャー」に発表した論文の中で、様々な角度から「フラット化する世界」を手厳しく批判しています。

 さらにトロント大学のリチャード・フロリダは、多くの学術論文やメディアへの寄稿を通じて、「世界中の経済活動、特に知的活動や起業活動などは、特定の都市など狭い地域への集中が進んでいる。すなわち世界はむしろスパイキー化しつつある」と主張しています。

ベンチャー・キャピタルの国際化に見られる矛盾

 国境を超えたビジネス・投資にも、フラットではなくスパイキーな傾向が見られることを示したのは、筆者がニューヨーク州立大学バッファロー校のヨン・リーとピッツバーグ大学のラビ・マドハヴァンと共に、2011年に「ストラテジック・アントレプレナーシップ・ジャーナル」に発表した論文です。この論文で、私とリー教授・マドハヴァン教授は、米国を中心としたベンチャー・キャピタル(VC)の国際投資を統計分析しました。

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