国際的なビジネス活動の代表は、貿易取引です。国際貿易において国と国の距離が障害になることは、1970年代から経済学で盛んに実証されてきました。国同士の距離が遠ければそれだけ物流コストがかかりますし、取引時の情報のやりとりも難しくなります。

 この点を検証するため、経済学者は世界中の国同士の貿易データを使った統計分析を行い、各国の経済規模や貿易政策などをコントロールした上でも、やはり2国間の距離が遠いほど、国同士の貿易量にはマイナスの影響を及ぼすことを示して来ました(グラビティ・モデルといいます)。

 ここで問題なのは、その時系列的な変化です。例えば現在は40年前と比べれば、国際間の輸送コストは低下しており、情報技術の進展で国同士の情報のやりとりも飛躍的にスムーズになっています。だとすれば、過去に見られた「国同士の距離の貿易量へのマイナス効果」は低下していると予想されます。

 ところが実際に検証してみると、その傾向はむしろ逆で、国同士の距離のマイナス効果が年々強くなっていることが示されたのです。これを明らかにしたのは、国際経済実証研究の大家である加ブリティッシュ・コロンビア大学のキース・ヘッドが仏INRAのアンセリア・ディスディエールと2008年に「レビュー・オブ・エコノミクス・アンド・スタティスティクス」に発表した論文です。

世界は「狭く」なってはいない

 先に述べたように、国の間の距離の貿易量への影響についての統計分析は、1970年代から多く行われてきました。ヘッドたちは、過去に発表された103の実証研究から得られた1467の推計値を集計してメタ・アナリシス分析を行いました。

 彼らの分析によると、例えば1970年代のデータを使った研究では「距離の違いによる貿易量の変化の弾性値」は平均で0.9となりました。これは国と国の距離が1%ポイント長くなることで、貿易量が0.9%ポイント減ることを意味します。そしてこの弾性値は、1990年代以降では0.95に上昇しているのです。この論文をヘッド達は以下のように締めくくっています。

These findings represent a challenge for those who believe that technological change has revolutionized the world the economy, causing separation to decline or disappear.

 これらの結果は、「技術の進歩により(距離による)『世界経済における国々の間の分断』が減ってきている」と信じている人たちへの、挑戦的な結果といえるだろう(筆者意訳)。

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