※この記事は日経ビジネスオンラインに、2014年7月2日に掲載したものを再編集して転載したものです。記事中の肩書きやデータは記事公開日当時のものです。

【登場人物】紹介

老教授
米国の大学院でドラッカーの教え子として直接指導を受け、その後長くドラッカーの同僚でもあった日本人老教授。専門は組織マネジメント論と組織イノベーション論。数年前に定年退職し、静かに日本で暮らしている。執筆の傍ら若き経営者やマネジャーを自宅に招き、相談に乗っている。対話を通じてドラッカーのマネジメント理論を分かりやすく教え諭し、マネジャー本人に気づきを与えるスタイルが、多くの経営者の間で密かに支持されている。

悩めるマネジャー
大手企業の40歳代管理職。将来を嘱望され、トントン拍子で昇進してきたが、突如300名規模の地域事業本部の責任者に任命される。都会の洗練されたオフィス環境から一転、地方の事業所を拠点に、組織の舵取りをする中で、部下とのコミュニケーションやトラブルの対応、社内で発生する様々な問題に日々頭を悩ませている。ドラッカーのマネジメント論に関心はあったものの、じっくりと書籍を読んだことはない。知人から老教授を紹介され、月1~2回の東京本社への出張のタイミングで、教授の書斎に相談に訪れるようになった。

※このコラムでは、老教授と悩めるマネジャーの対話形式で、ドラッカーのマネジメント論を解説していきます。

マネジャー:お時間をいただきありがとうございます。手紙にも書きましたとおり、半年前に着任しました地域事業本部のマネジメントで、苦労しています。先生が、あのドラッカー氏と長年おつきあいがあり、その理論にもお詳しいと聞き、何かヒントをいただけないかと思い、伺いました。

老教授:お会いできて嬉しいです。コーヒーを飲みながら、ゆっくりお話ししましょう。私は、ピーター(ドラッカー)から多くのことを学びました。彼は、社会や人間の幸福を実現するために、組織経営はどうあるべきかを生涯を通じて考えた人です。まさに、あなたのような事業の最前線で活躍される人が実践するために「マネジメント」の原則を体系化しました。話し合いながら一緒にヒントを探りましょう。

マネジャー:ありがとうございます。心強いです。

老教授:落ち着かれたら、早速始めましょうか。いま、マネジメントに関して、どのようなことに最も悩まれているのでしょうか。

社員が自分の頭で考え実行する力が足りない

マネジャー:一言で言えば、社員が自分の頭で考えて結論を出し、実行する力が足りないということでしょうか。問題が発生したとき、早急に営業上のアイデアを出さなければいけないとき、主体的に自分の意見を話し、迅速に行動できる人材がいないのです。また、時間をかけているわりに大切なことを決めずに、後回しにする。基本的なチェック漏れによるトラブル発生も日常茶飯事です。部長や課長といった管理職も、課題の根っこは同様です。

老教授:なるほど。あなたはその現状に対して、どのような手を打ちたいですか。

マネジャー:意思決定プロセスや、情報システムといった仕組みをこれまで以上に強化しようと考えています。人事制度や業務設計の外部コンサルタントにも再度依頼します。相当のコストがかかると思いますが、今これを実施しなければ組織の成長はないと思っています。

老教授:意思決定が遅く、方法が曖昧なので、そこに管理システムを導入し、解決を図るということですね。お考えは筋が通っています。しかし、その状況で上からの管理を強めれば、逆効果になるリスクもありませんか。

マネジャー:逆効果? どういうことですか?

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