※この記事は日経ビジネスオンラインに、2015年11月16日に掲載したものを転載したものです。記事中の肩書きやデータは記事公開日当時のものです。

 企業とその企業の離職者との関係の変化は、近年起こっている雇用関係の変化を映し出す鏡といえる。従来、社員本人の希望で別の会社への転職といったケースでは、これを会社側に告げることは気が重い仕事だった。ほとんどの場合、社員と会社の関係はこれで終わりと考えられ、そのあと一度去った企業に復帰するということはまずなかった。

 これは、社員は会社に忠誠を誓うといった暗黙の了解があり、この絆を社員の意思で断ち切るということはその道に反する行為、という考え方からきている。しかしこの反対の例もある。例えばコンサルティング会社の社員が顧客企業に転職する場合。このケースでは離職者が作る新しいネットワークが辞めた企業の利益と重なってくるというわけで、この業界ではずい分前から頻繁に見られてきた。

中途で転職する人材は雇用適性が高い

 コンサルティング会社の例がすべての業界に通用するわけではないが、離職者がもはやその企業の利益とはならないという理由はどこにもない。第一に自らの意思で会社を去る社員とは、雇用適性があり、向上心に溢れ、労働市場を渡っていく十分な能力を持ち合わせている。

 つまり雇用者にとっては魅力的な人材といえるが、その時企業が求めるものと合致すれば、一度去った優秀な前社員を再び雇用するということもあり得る。

 長い職業人生の中には「キャリアの高原地帯」といったような時が存在し、そこでは必ずしも社員が企業や仕事自体に不満を持っているわけではない。だが、たまたまその時に置かれている状況が「上に登りたいのに登れない」といったフラストレーションにさいなまれる時があるものだ。

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