※この記事は日経ビジネスオンラインに、2014年6月10日に掲載したものを再編集して転載したものです。記事中の肩書きやデータは記事公開日当時のものです。

 水泳に、自転車、そしてラン…。トライアスロンというスポーツは過酷なイメージがある。だが、「練習さえすれば多くの人たちが、最後のゴールまでたどり着けるスポーツでもある」という。そんな魅力から幅広い世代で新たに始める人たちが増え、地方では集客が期待できるイベントとしても注目されている。人気は高まる一方だが、実は日本で開催する大会がなかなか増えていない。その背後にある理由は何か。

 日本トライアスロンの歴史の中で、草創期と言われる1980年代後半から選手として活躍し、日本を代表する選手として牽引しつづけ、今やトライアスロン関連事業会社の経営者として活躍している白戸太朗氏に、トライアスロンの課題について話を聞いた。

 聞き手としてはプロスポーツに詳しいプロデューサーの萬屋五兵衛氏に協力してもらった。

シドニーオリンピック(2000年)で正式種目になってから早14年。

 今や国内でも毎年、大小280もの大会が開かれ、その愛好者人口も30万人を超えていると言われています。昨今のマラソンや自転車ロードレース等に代表される長距離型のスポーツブームの後押しはもちろんその追い風になっていると思いますが、ここ数年は抽選でないと参加できない大会がある程の人気や広がりを見せています。

白戸:トライアスロンというと、Ironmanのような過酷なレースばかり取り上げられがちなのですが、実は誰にでも比較的手軽にできる垣根の低いスポーツなんです。一般人でも参加しやすい距離に設定されたオリンピック・ディスタンスは、現在の主流となっています。

*Ironman:1977年、ハワイで、アメリカ海兵隊員達が宴会の席上、「マラソン・遠泳・サイクルロードレースのどれが最も過酷か」を議論、比較できず、「この際まとめてやってみよう」と、翌1978年、同地でアイアンマン・トライアスロンが行われた。これがきっかけとなり、この時のレース距離スイム 3.8km・バイク180km・ラン42.195kmと制限時間17時間でのレースが、アイアンマン世界選手権(Ironman World Championship)へと発展し、現在、世界各地でハワイ本戦出場をかけた予選が開催されている。

*オリンピック・ディスタンス:スイム1.5km、バイク40km、ランニング10kmの総合計51.5kmで行われるレース。

厳しいイメージがあるが、誰でもできるのが魅力

垣根が低いと言われても、草野球や草サッカーとは違い、それなりに練習をしなければならないですよね?(笑)

白戸 太朗(しらと・たろう)
アスロニア代表/スポーツナビゲーター/アスリート

1966年(昭和41年)京都府生まれ。現役プロアスリート/スポーツナビゲーター。中央大学卒業後日本体育大学に編入学。以後本格的にプロのトライアスロン選手として活動し、1990年から1995年にかけて国際トライアスロン連合(ITU)の主催する世界トライアスロン選手権に出場。1992年に日本体育大学の大学院に進学し、1995年に大学院修士課程を修了。1990年代後半からはスポーツキャスターとしての活動も始める。『J SPORTS cycle road race』には長年にわたり出演を続けている現在もトライアスロン大会に出場する傍ら、2008年に自らが代表を務める「アスロニア」を立ち上げ、トライアスロン用の各種用具(ウェア、自転車)の販売、世界的な大会である「アイアンマン」の開催をはじめ、国内での普及にも取り組んでいる。

白戸:もちろん何もやっていない人がするのは無謀かも(笑)。草野球や草サッカー的な意識ではできません。当たり前ですが、単一競技ではなく、スイム、バイク、ランの3種の複合競技でありますから、地道にトレーニングを積み重ね、それ相応の体力をつけないと完走はおぼつかないです。3種目もあるので、練習に費やす時間もそれだけ長くなります。ですから、自身の生活、ライフスタイルにきちんと取り入れないと継続はできません。

厳しいイメージがあるのになぜ愛好者人口は増え続けているのでしょう?

白戸:厳しいイメージがある。それなのに誰にでもできる、ということがトライアスロンの魅力です。目標を立て計画を作り、準備すればだれでもできるんです。そこから、時間の使い方、食事のとり方、様々な事へのベーシックな考え方など、社会での生き方そのものをポジティブにとらえるスタイルが身につきます。そういった自身のライフスタイルに変化をもたらす楽しさが、その魅力なんだと思っています。

昔と現代では、楽しさが違うんでしょうか?

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