今、就職活動をしている若い人たちにとって、あれですね、勇気が・・・。

小田嶋:どうかね、勇気は。

はい。勇気、どうですかね。愕然としますね。

:まあ、就職試験だって面白いと思えば受かりますよね。だって、相当面白くないからね、あれは。

小田嶋:我々のころは『面接の達人』みたいな本が出てなかったでしょう。ああいうのが出ちゃった後、試験を受ける側がちょっとひねくれてきて、面接官の側もそれを読んでいるか読んいでないかを織り込み済みにして、みたいになって、就職戦線というものが何かすごくいやらしいものになった感がある。我々のころはまだプレーンだったから。

:そうだよね。ノウハウ本なんかなかったもん。

ノウハウが共有されることで、本当につまらなくなる

小田嶋:芝居がかった面接をしよう、というようなことも、当時はなかったから。だから逆に、俺はもうどうせだめなんだから、芝居がかった変なことをしよう、なんていうのが、当時は受けたりしたんだけど。『面達』が出た後だと、面接官は、こいつ、何、変なことマネしているんだ、としか思わなくなるだろう。

:そうだよ。

小田嶋:何、奇をてらっているんだ、なんて反感を買って終わりでしょう。

小田嶋さんは、成績表に優が少ないという不利な事実を、「優という字は『にんべんに憂える』と書いて、憂鬱な学生生活を送った者が取るものです」と言い張って、切り抜けようとしていたんですよね(こちらはこのへんを参照)。

小田嶋:あのときはウケたかもしれないけど、その後は、「で?」なんて言われて、そこで終わりでしょう。

:ゲームのルール云々で思い出したんだけど。

 TUGBOATの多田(琢)の息子が、東京FCのジュニアユースに入っていて、有望株の選手なんです。その息子が、東京ヴェルディのジュニアユースと試合したんだ。

 ヴェルディには、僕の友だちの元野球選手、T氏の息子たちがいて、試合は4対0で向こうが勝ったんだけど、3対0で進んだ終盤の終盤に、T氏の息子がボールを真ん中で持ったんだって。それで彼は、誰かが上がってくるのを冷静に待ってパスを出し、最後にその誰かが点を決めた。これって普通の親なら息子に対して「よくやった」と褒めるところじゃない? でもTは激怒して、息子に「お前はダメだっ!」と罵倒を浴びせたそうだよ。

小田嶋:うーん。

:なぜかというと、3対0で勝っていて最後の最後にチャンスがきたら、ほかにいい選手が何人いても、自分でゴールを決めなきゃダメだ、と。そんなことじゃプロになれない、二度とパスなんかするな、ということで。

 それを見ていた多田は、絶対にあんなことは言えない、と言っていた。

小田嶋:それはそうだよね。

:やっぱりパスしたことを褒めてあげたい、と思っちゃうじゃない、普通の親の神経だと。でもプロになれるかどうかの境目というのは、結局そこらしいんだよ。

そこで息子を叱れるか

小田嶋:メンタリティーとして、そこをいかに打ち出せるか、ということなんだろうね。
T氏ってさ、高橋源一郎の『優雅で感傷的な日本野球』で、いい感じの役を振られているんだよね。

:選手として知的だからね。

小田嶋:彼はストライクゾーンのことを、いつもいつも考えていた選手だった。だからバーに飲みに行っても、「僕にはギムレット、僕のストライクゾーンにはウォッカ・アンド・トニック」とかって、ストライクゾーンに酒を注文してしまう――というような役で出てくるんだよ。

:その小説が面白いのかどうかは僕にはよく分からないけれど、チームプレーに貢献した息子に対して「ダメだ!」と罵倒する思考が、異色だよね。

小田嶋:そういった、現場でのナマな思考というのは、普通のインタビューではなかなか出てこないしね。

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