小田嶋:うん、読んだ、読んだ。

:いや、分からないでしょう、「文案」って普通は。

小田嶋:分からないね。

:分からないですよ。そもそも早稲田大学は電通への応募者が多過ぎて、早稲田だけまとめて400人で受けさせられたんです。

すごい。

:それで、「文と案」ってどういうことなんだろう?って。「文」は文だから分かる気がする。でも「案」って何? 結局、それは「図」だろうな、と思って文と案を別々に書いて提出した。後で一緒に受けたやつらと話したときに、「文案の『案』の方なんだけどさ」とか言っていたら話がなかなか通じなくて、そこで始めて「文案」ってひとつの言葉で、しかも「コピー」のことなんだと分かり、ああ、終わった、いくら何でも終わった、と(笑)。

みんなは知っていたんですね、文案を。

:みんなはコピーを書いているんですよ。

 受ける以上は「文案」が何を指すのかは、ちゃんと分かっている。でも僕は知らないから。といっても「案」って難しいよね。案というもの自体が、そもそも難しい。

難しいですね。というか、どういう問題だったんですか。

本当に分からないから勝ち残れました

:今、シルバーシートに若いやつらが座ってしまっていて、本来、席を譲られるべき人が座れなくなっている。これを解決する文案を書け、ということだったんだよ。まあ、文は書けばいいから書きますけど、案って? という感じで、僕は見取り図的に、電車の椅子の絵を描いて。

小田嶋:しかし、なんで分解したの?

:いや、その前に僕の「案」を説明しましょう。

 ここにこれ、シルバーシートがあります、と。その下にスイッチが入っています、と。そして、座ると重さによって頭上に「ありがとう」というランプが点く。こういう装置を取り付ければ、若い人は座りにくい。ということを「案」としたわけです。「案は裏へ」なーんて答案に書いちゃって。

小田嶋:あえて分解したんじゃない、というところがね。

:そうしたら、あえてやったと思われて、もう高評価。オマエはバカだ何だ、と俺に向かって言っていたやつらが、みんな落ちているんだから。

小田嶋:大いなる誤解というか、きっと400人からの倍率になると、いい悪いじゃなく、珍しい方を取るという。

:そうだよね。15人ぐらいだもんね、最終的に受かるのが。

小田嶋:ある倍率を超えると変なものが通るということだよね。ただ、それがすぐに伝説化して、翌年に同じことをやって、落ちてるやつがいるだろう。

:かもしれないけど、俺、本当に分からなかったんだもんね、文案が。

堂々と胸を張って。

:だからよかったですよ。試験は、その文案と、あとは英語と一般教養だったんですけど、文案はそのうちの30%ぐらいを占めていて重要だった。

小田嶋:岡は英語はそこそこできたと思うんだけど、一般教養というのは、たくさん点が取れた方じゃないと思うよ。一般教養だって、岡は案外ひどくはないはずだけど、電通みたいなところって、みんなものすごい点を取るでしょう。その中では決して高得点の部類ではなかったはずだよ。

:うん、ないと思うね。

困ったときほど、できること

小田嶋:だって岡は、知ってることは知ってるけど、知らないことは驚くほど知らないから(このあたりを参照)。

:当時、電通はまず筆記。これが受かっちゃえばあとは2~3倍の倍率になったんです。でも、その筆記に通ることが、ほとんどの場合、ないと言われていた。だから確かにここが勝負だったんだ、文案が。

小田嶋:でもラッキーだよね。

:もし文案を知っていたら、普通はコピーのまねごとみたいなのを書いちゃうわけでしょう、みんなと同じに。俺、落ちていたよね、知っていたら。

小田嶋:普通は「文」と「案」に分解できないよ。

:そんな度胸はないですよ。

小田嶋:そこをすっと分解したわけだから。

:困ったときというのは思わぬことを思い付くよね。

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