嫌な息子ですね。

:でも親が破産したというのもさ、それだけで自分の人生がドラマチックになっているわけだから、うまくいくに決まってるっていうか。だって、他人が聞いても面白い話だろう? だから、絶対大丈夫だと思っていた。うまく言えないけど、それほどの不運があった以上、後はもう絶対にいいに決まっているって。そう思わない? 

小田嶋:いや、それは思わなかったけど。

:だって、お芝居みたいで面白いんですよ、とんでもない目に遭うことが。例えば夜中に窓ガラスがバーンって割られるって、映画みたいじゃない? もう、自分がアンディ・ガルシアみたくなっているわけよ。それはそれで面白いんだよね。

小田嶋:そこは不思議な当事者感があるだろうね。

:あるんだよ。あまりの不幸というかアンラッキーって。体のことじゃなければね。

岡さんはそこで悲劇の主人公方向には行かなかったんですね。

:いや、悲劇じゃないですよね。

今の若い子たちは、自らを悲劇のスパイラルに向かわせたがるというか。

小田嶋:だから『蟹工船』なんかが売れるんでしょうね。ただ、その人たちの問題点というのは、自分が勝てないと思い込んでいる、というよりも、そもそも闘志がないというところじゃないかと思うんだけど。

:勝とう、という発想がないんだ。

小田嶋:そう。勝とうとも思っていないことを、自分でも自覚していると思うんだよ。確かに彼らは、勝とうと思うような育ち方もしていないだろうし、そうすると、今さら、どこで、何を、俺が戦うわけ? という感覚になるんだろう。それは分からないでもない。

建築現場も広告業界も、ゲームとしては大差ない

:大学を卒業するとか、会社で仕事をするとか、何か決められたことをやるというのはゲームのようなものだから、そのゲームはもちろん勝った方が楽しいわけです。でも、勝っても負けても、ゲームをやってることは同じだからさ。僕にしたって結局、そのぐらいの感じですよ。

岡さんにしても勝ちにこだわっているわけではないんですね。

:違います。常に勝とうなんて思っていないですよ。でも、ルールを熟知したり、相手の出方を知っていたりすれば、勝つチャンスは多くなってくる。そういうふうに考えれば、仕事だって、何だって同じですよ。結局はゲームなんだから、というふうに自然と思える。というか、そうとしか思えなくなる。

小田嶋:岡は、建設作業員をしていたって、親方の背中を流す地位にまで成り上がろうとするやつだから。

:そのときは建設作業員の役割を演じている自分がいるわけだよ。で、今は広告を作る役割をやっている。役を演じるという意味においては、どちらも大して変わらない。

小田嶋:岡はそのへんは昔から分かりやすいよね。今やってるのはバックギャモンだとか、今やってるのはマージャンだとか。

:マージャンをやるときもあるし、対談をやるときもある。それは全部、等価なんだよね。

小田嶋:今、自分はどういうテーブルでどういうルールのゲームやっているのか、という話だからね。

:そうそう、そうだよ。逆に言えば、仕事は何でもいいわけですよね、高く賃金を払ってくれれば。

小田嶋:そこで条件が入るところが、ちょっとまた、岡でね。

:安くてもいい、ということはないと思うんですよ。

小田嶋:あと、さらにルールを自分で作っていったりするからね、お前は。

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