小田嶋:普通は怖いわけよ。でも俺は高いところは怖くないから、足場をすいすいすいすい上っていって、はい、こっちをやりますよ、と言っていたら、すごく将来を嘱望されて、「君、うちに来ないか」と、結構、真剣にスカウトされました。

すごいじゃないですか。

小田嶋:それが就職活動をしている一時期、俺の心の支えになっていて、いざとなったら俺は高いところで仕事をすればいいんだ、というふうに思って精神を安定させていました。

:とび職みたいな運動神経が要求されるだろうな。

小田嶋:そう。それで結構、条件がいいのよ。

:基本的に危険を冒しているものな。

小田嶋:俺にとっては、そんなにきつくないんだけど、怖いということさえ除けば、いいお金がもらえるわけ、短時間で。

岡さんが面白かったバイトは何ですか。

:面白かったというか、今、話せばたぶんこの辺は面白いというのが、郵便局のバイトなんだけど。昔は電話が共同だったこともあって、電報の需要が多かったんですよ。それで、成人式の日というのは「成人の日おめでとう」って、田舎の親とか親戚のおじさんとかから、その二十歳になる人たちに対して電報がたくさん届くわけです。

そこでアルバイトの需要も発生するんですね。

:そう。僕がやったのは成人の日の電報配達で、池袋を自転車で回るんだけど、途中から雪が降ってきちゃったの。それで雪と自転車って、すごく苦しい組み合わせなんです。もう寒いし、大変だし、でも、早く届けなくちゃ電報の意味がないから、なるべく急がなくちゃいけないし。雪が降る中、僕のそばには、すごい数の電報がある。しかもその日は僕の成人式でもあったという。

小田嶋:中国の映画みたいだな。

バイトに行く君を車で送った僕

:そうでしょう。そのくらい当時の僕は追い詰められていた、ということなんですけどね。

何か、ほろっとくるような。笑うところじゃないですよね、念のため。

:ははは。でも、あまり悲しくもなかったのよ。ただ、これまで人にも言わなかったし、小田嶋にも言ってないけど。だからちょっと抑圧していたね、記憶を。今、話していて何か思い出してみようかな、と思っていたら、そうだ、そんなことがあったな、って思い出した。

小田嶋:岡は何か、建設関係もやっていたよね。

:やってた、やってた。報酬が高いのは、1週間とかまとまった期間、宿泊所に入って、寝泊りしながら作業する、というパターンなんですよ。中でも、もっとも高いのは、大型免許を持っていて作業員を運ぶ役目なんです。

運転手ということですか。

:いや、運んで、しかも建設作業もするんだよ。それでまた運転して、宿泊所に帰る。ただそれは、本当は大型免許がないとだめなんです。でも事故さえ起こさなければいいやって、俺、免許があるってウソをついて。

・・・・・・時効かな。

:大型の免許がないのに、マイクロバスに乗り、運転し。それで当然、内輪差とか分からないから、ガガガッと電柱にぶつけちゃう。でも、どんなにぶつけても、乗っている人たちはみんな寝ているから、分からない。

小田嶋:岡が作業員のバイトをやっていたことを、俺がなぜ知っているかというと、バイトに行くお前を、俺が自分の車で送ったことがあるからだよ。

運転手付きで出勤していた運転手だったんですね。

小田嶋:こいつのバイト先というのが、板橋区のはずれで、そこまで行く足がないんですよ。下赤塚の先の、何か変な山を登っていかされたよ、俺。

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