岡:日本の政治にはそういうのがあまりなくてさ、選挙で負けた方が「お手並み拝見」とか嫌みを言ったりするでしょう。
小田嶋:捨てぜりふだよね。
岡:スポーツはその点、ぎりぎり残ってはいると思うんだけど、でも、敗者のスピーチの方が、ともすればカッコよかったりする欧米ほど見事なものじゃない。
小田嶋:日本だと派閥でもって対立して担ぐ候補を変えたりすると、その後、和解できなかったりするでしょう。よく自民党なんか、それで大げんかになっちゃって、あいつとあいつはだめだ、みたいに引きずっているけど。例えばこの間の大統領選のケースで言うと、オバマとクリントンはあれだけひどいことを言い合っていたのに、その後、国務長官にはあなたしかいないと思っていました、なんて。
岡:よく言うよ。
小田嶋:あれができるのはやっぱり向こうの人のメンタリティーだよね。我々はそう言われてもちょっと、それを言うんだったらあれは何よ、という。
ということは、女々しさとは日本人的ということなのでしょうか。
小田嶋:外人の女々しさもあるんだろうけど、そういう意味では、日本人というのは女々しいと思うよ。
岡:女々しいのは同じだとしても、あっちの人たちの方が、コントロールする文脈みたいなものを持っているんじゃないですかね。
2位の賞品を投げ捨てろ
小田嶋:異民族がすぐそばにいたり、しょっちゅう異教徒がやってきたり、という経験をしている人たちは、やっぱり言葉だったり、論理だったり、立場だったり、駆け引きだったりでやっていかなきゃいけないんだけど、我々は何となく、気持ちで察してよ、みたいなところをやっているから。
岡:そうだよね。そもそも対立が表面化しないから、対立して敗れることのトレーニング機会も少ないんだよ。
小田嶋:一度表面化しちゃうと修復が難しかったり、勝ち負けがついちゃうと付き合いにくくなっちゃったり。だから、お互い順位を付けないでやっていきましょうよ、みたいな、くそ甘ったれた関係が好きだったりするでしょう。
岡:ひところ、幼稚園とか小学校で徒競走の順番を付けない、というようなことをやっている、と話題になったでしょう。あれをやると、よき敗者のなり方を学べないですよね。すごくよくないと思う。
小田嶋:あれはもう、さすがにやってないでしょう。でも、順位は付けてるけど、賞品を渡すとか、渡さないとか、そのへんはごちゃごちゃやっているんじゃないかな。
岡:僕が見た自分の子供の運動会では、昔みたいに1位がノートで2位が鉛筆みたいな、そんなのはなかった。
小田嶋:そういうのはなくなったね。
岡:そうでしょう。それで鉛筆をグランドにたたきつけるやつとか、そういうことがなくなった。
そんなの見たことないです。
岡:ないけどさ、俺も。例えばそういうようなことだよ。
小田嶋:小学校の徒競走は大切ですよ。
岡:大切だよね。プライドを懸けて、それが打ち砕かれたとき、どういう態度でグラウンドを半周して去っていけるか、ということだよね。
それで岡さんは夜中に悪口を思い出したときは、どうやって折り合って眠るんですか。
岡:いや、だから、折り合えないんですよ、いまだにね。思い出しちゃったら、眠れなくなっちゃう。『チャイルド44』とか、ああいう強烈に面白い小説があるときはいいんだよね、とにかくそれを読んじゃえば何も思い出さないから。ちょっと今、面白い本がないな~、と思っているときに思い出すとやばいですね。
小田嶋さんはそういうことはありますか?

小田嶋:俺は、その部分はないかもしれないね。嫌なことはすぐ忘れる、というのが俺の長所だから。
岡:それって他人にあまり関心がないということじゃないか。
小田嶋:まあ、そうだろうけど、でも、それは昔から忘れるようにしている、ということはありますよ。
岡:たぶん小田嶋の方が僕よりひどいことを言われていると思うよ(笑)。
小田嶋:だって俺のようなもの書きって、人に対してもいろいろなことを書いたり、何なりしているから、当然それは自分に返ってくるよね。そこは気にしないようにしないと、身が持たない部分があります。そういう人じゃないと、こういうライターってやっていないと思うよ。
一同:(みんなで納得)。
小田嶋:言われても平気な人たちですよ、皆さん、ライターさんとかっていうのは。
とはいえ、努力してそういうふうに持っていった、ということなんでしょうね。
小田嶋:人の言うことをあまり聞いていないのかもしれないですね、ちゃんとはね。
(せっかくのフォローが水の泡)。
「人生の諸問題 令和リターンズ」はこちら
有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。
※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。
※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。
この記事はシリーズ「もう一度読みたい」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?