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:僕はナンパもしたことって、ないですね。恥ずかしくてできないよ、知らない人に声を掛けるなんて。

小田嶋:そこが違うところだよね。

:違うね。もうかッコつけちゃって、できないんだろうね。おまけに俺なんかは自我が弱くて。とにかく傷つきたくなくて。だから口説けないし、むしろ言い出してくれるのを待っている、みたいなことだよね。

こちらは定置網だと。

小田嶋:でもナンパは結局、初めて会う子だから、断られても何の痛痒もないわけよ。

:いや、だけどさ、初対面の人に拒否されるわけだよね。嫌じゃないの? それ。

小田嶋:拒否が前提だから、ちょっとすみません、と声を掛けて、急いでいるので、と言われたら、余計なこと言いました、ごめんなさい、と言って帰ってくるんだよ。その帰るときの礼儀正しい態度が、自分ながらすてきだな、と。

:すごいな、それ。

有能なキャッチの営業マンみたいに。

小田嶋:ごめんなさい、余計なことを言いました、みたいな感じ。

:捨てぜりふは吐かないわけだね。

小田嶋:それは言わないです。断られれば断られるほど、うそのように礼儀正しく撤収していくんですよ。

あんなことを、なんで言われなきゃいけないんだろう

:だけどナンパしなければ、じゃあ、声が掛かるかというと、掛からないわけだよ、待っていたってね。だから結局いいことは、なかなかないよね、そういう態度だと、それはそれで。

小田嶋:遠い目をするけどね。

それで岡さんは夜に1人、自分に向けられた悪口を思い出しているということですが。

:そうなんです。僕は自分ながらに相当女々しいと思うけど、悪く言われていることを忘れられないんですよね、何年たっていても。きっとそれは、あながち的外れな悪口ではないからなんだろうけど。

小田嶋:だからこそ忘れられないわけでしょう。

:的外れな悪口って、そんなの完全な誤解とか暴力みたいなものだからさ。だけどやっぱりどこか思い当たる所がある悪口は傷ついているというか、とても嫌なものとして残っちゃうんだよね、そんなの忘れればいいのに。実際、普段は忘れているんですけど、寝ようとすると思い出すんだよね。

女々しい・・・・・・。

:女々しい。もう大嫌いなんだよ、自分が。

小田嶋:これは分かるな。

:分かる?

小田嶋:分かります。意外に打たれ弱いからね、岡は。

:小田嶋がそう言うのは、ちょっと強引に当てはめているな、と思うけれど、あまりにも情けなくて人にも言えないしさ、解決策がないんですよね、その女々しさに関しては。

小田嶋:声をあげて起きちゃったりしてね、わーって。

:なんか女の人はなさそうなんだけど。

竹を割れずに餅をつく

あります。『あのとき、あの人が、ああ言った、絶対に忘れない、』というのが。

:それ、怒りじゃないの? 怒りだったらまだいいんだよ。

小田嶋:そうだよね。

:怒りというより悲しみに近い。

小田嶋:情けないね。

:弱いよね。

小田嶋:弱いね。

もうちょっと具体的に、何を言われたんですか。

:いや、そんなことは言いたくないですよっ。とてもじゃないけどね、そんなことを言えているぐらいなら、僕はもうそのことを乗り越えていると思うんだよ。

小田嶋:確かにそうだ。

:誰にも言えないから苦しいわけじゃないか。

小田嶋:でも、きっと今この場で岡が吐露しても、ほかの人にとっては、そんなに大したことじゃないんだよね。

:そうそう、要は何を言われたか、ではなくて、僕が傷ついている、ということだからさ。そういう・・・・・・女々しさの反対ってなんでしょうかね。男らしさですかね。雄々しさですかね。

小田嶋:言葉では「竹を割ったような」というやつでしょう。それとは逆に「もちをついたような」とか言うよね。

:そう言うのか。