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それはただのマヌケですね。

:そうだね。だから俺は飲まないから、その手は使えない。

小田嶋:そう。だからそれは立派なことだということよ。我々はそういうところは普通、露骨な段階を踏んでいるんだけどさ、あたかも気が付いたら終電がなかったね、というようなシチュエーションづくりというのをしているわけじゃない?

:小田嶋の場合は、してあげた、と言いそうだけど。

小田嶋:そうそう。それをして口説くということであるならば、俺だって口説いてはいるのかもしれないけどさ、真正面から「僕はあなたと付き合いたいです」みたいなことを言ったことは、人生で一かけらもありません、という話です。

:実はたいがいの人は結構そうなんじゃないのかな。

小田嶋:私は学生時代に、スーパーフリーの前身みたいなサークルにいたんですね、というと物議を醸すようで嫌なんだけど、

:それはやばいんじゃない?

小田嶋:でも、当時はそんなひどいサークルじゃなかったんだよ。でもそういうところって、そういう女の子たちがいっぱい集まってくるから。まあ、どこだってそうだけどさ。俺は“ローレンツのアヒル”と呼んでいたんだけど、田舎から出て来た女の子が東京で初めて口をきいた男の子にほれる、ということがあったりする。それほどティピカルなことが巻き起こっている不思議なところだったのよ。

良心的なヤツほど辞められない

擦り込み現象の実験場だったと。

小田嶋:そうそうそう。あれ、心細いからなんじゃないかと拝察するんだけど。

:悪い場所だな、それは。

小田嶋:悪いところだけどさ。

:悪いよ、それ。

小田嶋:でも、だから何をしたってわけじゃないんだよ。というか、俺はそこのサークルでは良心派だったということを、ぜひ言いたい。だって、そのサークルにおけるうまいやつ、というか、ちゃんとしたやつは、入って2週間もすれば誰か見つけるのよ。それで一緒に辞めていっちゃうのよ。4月は全部で300人ぐらいいるんだけど、6月になるともう100人もいないの。それで夏を過ぎると25人ぐらいしかいなくなる。

:夏過ぎにいたのか、お前は?

小田嶋:翌年までいた、俺。

:大丈夫かよ。

小田嶋:そうだけど、いたってことはさ、いられないようなことはそうそうしてないっていう。

:逆説的に言えばね。

小田嶋:あまりにも交通整理のつかないことをやっちゃったやつとかいうのは、早々にいられなくなるでしょう。だから私はそこに残っていたわけだから。

 で、そういう中にいると、女の子の側に、あれっ、この子、俺に口説かれたいのかな、という感じで、ものすごくばさばさ粉を掛けてくる女がいるわけよ。しょうがないから「じゃあ、今度映画でも」とか言うと、その瞬間にこう、ぴたっと、ばっさり断られて。

:困ったやつだな。

小田嶋:ものの見事に、あれっ、こういうことだったのか、という展開。口説かないと気を悪くするくせに、ちょっとオファーを出すといきなりぴしゃっと、すごい速さで断ってくるという。

応札すると瞬殺されるんです

:(笑うしかない)

小田嶋:きっと多方面に一応粉を掛けつつ、一番いいオファーにだけ反応するというようなことをしていたんだと思うんですよ。

そういう入札システムで。

小田嶋:それで、あなたはまだ全然値が足りないから、みたいなことだと思うのよ。でもそうはいったって、オファーを出さないというのは評価してないことだから、あなた、いつになったらオファー出すの? って、そういう感じなわけよ。

競りには参加しろ、と。

小田嶋:そうそう、参加しろと。じゃあ、一枚噛みたいと思うんですが・・・・・・はい、だめ、と。その呼吸というのがね、何だかね。

:ばかだね(笑)。

大人になってもそれを引きずっているんですか。

小田嶋:当然そうですよ。全然そう。そもそも、その辺の不自由さをもともと感じているから、そんなサークルに行かなきゃいけなかったわけだから。ナンパとかは平気でできるんだけども、ちょっとこじれちゃうところには、口も聞けないどころか、用を取り繕って電話をすることすらできなくなる。

男性陣:(なぜか全員うなずく)

小田嶋:年賀状の返事すら書けない。