本記事は2009年3月27日に「日経ビジネスオンライン」の「人生の諸問題」に掲載されたものです。語り手の岡 康道さんが2020年7月31日にお亡くなりになり、追悼の意を込めて、再掲載させていただきました。謹んでご冥福をお祈りいたします。
(日経ビジネス電子版編集部)
(前回から読む)
岡:オバマが第44代アメリカ合衆国大統領に選ばれたとき、CNNが路上インタビューをしていたのね。そこに登場した、スーツを着た普通の白人のおじさんが「私は今、61歳だけど、思えば61年間、彼を待っていたような気がする」と言っていた。そういうコメントって、政治家にとってみれば、泣いちゃうぐらいのうれしさじゃないですか。
小田嶋:100人聞いたうちの1人かもしれないにしてもね。
岡:そうかもしれないけど、でも、そう言う人たちがアメリカにも結構いるんだ、ということで。
小田嶋:アメリカ人にとっての大統領って、我々にとっての横綱みたいなもので、何かおめでたい存在じゃないかな、って最近思うんだけど。好き、嫌いとか、政治的に右とか左とか、リベラルとか保守とかいうことを抜きにして、大統領はとにかく、おめでたい存在として、一応敬意を持って遇するという。
岡:ただ僕としてちょっと疑問なのは、オバマはあまりにも完璧なんだ、というところだよね。あんな完璧な人間っているんだろうか? まあ、ヘビースモーカーだとか、ケイタイメール中毒だとか、いろいろ出てきて、それで少し安心したけど。
小田嶋:パパとしても見事なんだよね、彼は。
岡:言ってみれば、全部見事じゃない? 貧しいところから出発して、ハーバードロースクールとかに行って弁護士になって、一番多いときに夫婦合わせて4億4000万円だかの年収があったのに、それを捨てて政界に打って出て。奥さんもそうだよね。シカゴの貧民窟みたいなところから飛び級、飛び級で上がって行って、やり手の弁護士になって、夫と一緒にすごい収入を得ていたのに、夫が政界に転身したら、彼のためにハウスキーピングワイフになって、家庭を支えて・・・・・・って、おかしいじゃん、話が。
でき過ぎている。
岡:人生の成功のために、エネルギーを10割投入している、って感じでしょう。何でそんなことができるのか? って。
あれもこれも、あまりにできすぎた人の諸問題
小田嶋:アメリカで大統領になるということは、全方位の積み上げが必要なんじゃないか。弁が立つけど、家庭生活はだらしがないとかさ、そういうのはだめなんだよ、基本的に。
岡:だけど、今までは大統領にしても、候補にしても、みんな金持ちだったじゃない? ブッシュだってマケインだってそうだし、昔で言えばケネディもそうだったし、ほとんどが大金持ちだよね。だけどオバマ夫妻はスタートが貧乏。しかも優秀。貧乏で優秀だ、とそれまでのパターンとは違うんだよ。それって、話ができ過ぎているというか、そんな立派な人生ってあるのかな、と。
小田嶋:広告代理店が作ったみたいな話だよね。
岡:そうでしょう。
小田嶋:そういう意味で言うと、リンカーン以来ぐらいでしょう。成り上がり系のあれだということになると。
岡:だから僕は今、何となく、ビル・クリントンが懐かしいというか(笑)。
小田嶋:あの、だらしなかったあいつが。
岡:奥さんはオバマ政権に入っているんだけどさ。
小田嶋:俺もこの間、自分で思ったのは、(ジョージ)ブッシュって、現役時代はずっと嫌いだったのね、いけ好かなくて。だけど退任するころになって、何となく親しみを持っていることに気が付いたのよ。
消えるとなると淋しいな、と。
小田嶋:そう。それで、ああ、俺、ブッシュを好きになっている、と思って。
岡:好きにはならないだろう(笑)。
小田嶋:いや、評価はしないよ。でも、ああ、あの、プレッツェルを喉に詰まらせてぶっ倒れたおやじ、って感じの、間抜けなアメリカ人としての……
それは自分を投影できるからでしょう。
小田嶋:そうそう。
岡:簡単に認めるなよ。
実は愛されていたブッシュ
小田嶋:でも歴代の大統領を考えてみると、みんな現役時代は嫌いなんだけど、去ってみたら好きになっている、というのは何なんだろうね。それぐらい激しい勢いで世界中に露出しているから、いつの間にか他人のような気がしなくなっている、ということだと思うけど。
麻生太郎にもそういう感情を抱きますか。
小田嶋:あいつはちょっと無理かもしれない。だってアメリカの大統領は、日本の首相のような、権威のない扱われ方と違うでしょう。日本だとやっぱり人々が嫌いになるようなアングルの写真ばっかり載せられるじゃない? でもアメリカの大統領は、すごくばかな表情とかいうのは、ちゃんとカットされていますからね。
岡:イラクの記者に靴を投げられたときのせりふは、気が利いていたね。「事実関係を述べれば、靴のサイズは10だった」って。
小田嶋:ああ、こいつ、反射神経が意外といいんだ、と驚きましたね。
岡:あれは麻生太郎にはできないでしょう。
小田嶋:「日経ビジネスオンライン」に載っていたのかどうか、俺、どこかで読んだんだけど、ブッシュという人は、オバマが愛されているのとはまったく別の意味で、実はすごく愛されていた、という記事があったのね。
小田嶋:というのは、多くの田舎の普通のアメリカ人にとって、好きな人というのは、頭がよかったり、弁が立ったり、抜け目がなかったりする人じゃなくて、ちょっとおっちょこちょいだけど、人のいいおやじのことで、ブッシュはまさにそれだったんだ、と。だからブッシュの支持率はすごく低かったけど、逆に言えば、あれだけクソミソな政治、あれだけめちゃくちゃな経済で、本来だったら支持率なんか5%ぐらいでいいところを、それでも20%あったというのは、人柄としては愛されていた、という。
岡:ひどい理屈だな、それ。
小田嶋:ひどい理屈だね。でも、そう書いている人がいて、俺、ちょっと、なるほどな、と思って。一方、オバマがそういう意味で愛されているかというと、この先、もし失政があったり、イラク戦争みたいなことが起こったりして、ひどい話が出てきたときに、手加減してもらえるかどうか、それは分からないよ。
岡:そこが人生10割の人物の弱点だ。最初から自分で設定したレベルが高い人は、みんなが設定するハードルも高いんだ。
小田嶋:だからオバマみたいな人は当然、有能であって初めて評価されて、無能なオバマとなると、これはもう……。
岡:でも今度の選挙で、アメリカは有能を求めたんだろう。
小田嶋:冗談じゃない、人柄じゃなくて有能さだよ、ということだったんだよね。
ちょっと学習して。
小田嶋:あのおやじも人は悪くないんだけどな、ちょっと無能すぎたよね、ということで。
オバマはかっこいいから大統領になれた
で、前回の疑問なのですが、ヴィダル・サスーンで耳を切られたのがオバマさんだったら訴訟に勝てたか、という。(前回参照)
小田嶋:オバマは岡とは逆の意味で勝てない。つまりオバマのような黒人は、別に社会的マイノリティじゃないから。
岡:マクドナルドに立ち向かった白人の老女ではない。
小田嶋:そう。岡のケースは、日本人ごときが何を言う、という意味で勝てないわけだけど、オバマの場合はそれとはまた違っている。
岡:あらかじめ下に見られる存在ではないもんな、オバマは。
小田嶋:だいたい日本の中でも、今の30歳から下って、黒人ワナビーなやつも多いでしょう。彼らってファッションにしても、音楽にしても、黒人文化がナチュラルにかっこいいと思ってるんだと思うよ。これが俺あたりの年代だと、親の世代から何か差別意識みたいなものをうっすらと浴びているんだけど、そういうことにとらわれるのがかっこ悪くて無意味だ、ということも分かっていて、何か葛藤は覚えるんだけど。
岡:オバマはかっこいいと思うよ。
小田嶋:腹筋が割れていたりして、単純にいい男だよね。あれがデブだったりしたら、ちょっと人々の熱狂も違ってくるという。
岡:それと、オバマが結婚した相手が黒人だったということですよ。あれがもし、ブロンドの白人のチアリーダーみたいな子だったら、アメリカは許してないと思うな。だって例えば、もし、あの白鵬が、SPEEDの誰かと結婚したら……。
何でSPEEDなんですか。
岡:いや、例えばだよ。
小田嶋:O.J.シンプソンになるわけだ。
岡:コーヒーのお代わりもらっていいですか。
小田嶋:私もいただきましょう。
岡:あ、もしもし、岡と申しますが、ノハラさんはいらっしゃいますでしょうか?
一同:は?
59歳(以下)のアメフトチームにモチベーションはあるか?
岡:(ケイタイを取り出して)あ、ノハラ?明日さ、午前中に○○公園で練習するんだけど、来てみない? (対談中にアメフトのアポ取りをしている)
小田嶋:ノハラって、あのノハラ? まさか。
岡:そう。あのノハラ。
いったい、だれ?
小田嶋:大学時代の友達です。しかし俺たちの年代のやつって、本当なら仕事が忙しくて、そうそうアメフトなんてやっていられないはずなんだが。
岡:そうなんだよ。いろいろ誘っているんだけど、U-59(アンダーフィフティーナイナーズ=岡さんが2008年春に立ち上げたアメフトのシニアチーム・「神田川の男、ルージュで伝言する女」参照)の現在の一番の問題は、モラルをどう維持するか、になっていて。
小田嶋:どういうモラル?
岡:立ち上げから1年が立ち、何のためにやってるの? ということにだんだんなってきた。
小田嶋:士気でいうところの“モラール”ね。モチベーションのことね。
岡:立ち上げたときはもう、みんな燃えているから、モラールうんぬんは出ないわけです。「僕たち、またできるのか」「それは夢のようだ」と言って集まって。それで道具なんかも金に糸目を付けずに用意したりして、それを家の鏡の前で付けたりしてみて、心が弾んじゃって。 そうやって、確かに始まったんだけど。
だけど?
岡:そのうち対戦相手がいないことにだんだん気が付いてね。毎週日曜日に、練習だけしているわけだよ。
試合がないのに。
岡:ただただ練習だけ。
小田嶋:だから適切なハードルなり、適切な義務なりがないと、きっとだめなんだよね。それに例えば草野球だったら、弱いチームと強いチームの戦い方ってあるけど、アメフトって無理なんじゃない?
岡:無理ですね。
小田嶋:相手を壊しちゃうでしょう。
岡:というか、壊されちゃうよね、僕らの場合だと。
小田嶋:それはおやじサッカーをやっている人たちも言っていたよ。草野球はそんなにもろな総力戦じゃないから、おっさんと若いやつがやっても、そこそこ勝負になるけど、サッカーは昔、ちょっと名選手だったような人たちが集まったチームでも、おっさんだと、くそみたいな若いやつらに負けるって。
練習中に救急車が4台来ました
岡:まず走れないもんな。
小田嶋:やっぱりサッカーっておっさんがやるにはきついって。
岡:アメフトはサッカーほどきつくはないと思うんだよ、走る量が短いから。
小田嶋:そうか。
岡:ただサッカーと違って、ぶつからなきゃいけない、というのが問題なんだよ。
小田嶋:危ないでしょう。
岡:危ないのよ。首の骨とか下手すると折れちゃうからね。U-59でも最初のひと月で、救急車が延べ4台来たからね。アキレス腱断裂が2本でしょう、それと骨折でしょう・・・・・・。
それは練習中に?
岡:そうそう。
もしかして、すごく迷惑な団体なのでは。
小田嶋:そうだよね。アキレス腱って、昔の感覚でもって走りだすと、違うでしょう、って、プツッと切れるみたいなところがあって。
岡:それは準備運動不足で切れるんじゃなくて、やっぱり頭の中でイメージ・チェンジができていないから切れちゃうんだ。例えば前傾の角度。若いころはここまで下げられたけど、今は下げられない。だけどボールを持つと、本能で習った通りに前傾しようとする。そうすると、その角度で足を支える柔軟性ってもうないから、折れるか切れるかしかなくなる。
小田嶋:うちの妹がテニスで去年、アキレス腱を切ったよ。
岡:3歳下だっけ?
小田嶋:届かない球なんだけど、もうちょっと頑張ろうかな、と思ったら切れていた、という。だから本気で追ったらいけないんだよね、あきらめないと。届きそうで届かないところをあきらめていかないと。
それはちょっと人生に通じますね。
才能とは、もしかしたらモチベーションのことかも
小田嶋:トレーニングはそうやって整理していくとしてさ、じゃあモチベーションはいったいどこに持っていけるの? 普通は試合というモチベーションがあって、それでトレーニングができるわけで、トレーニング自体がモチベーションになることはないでしょう。
岡:そうなんだよ。今までは「もう一度やれる」ということがモチベーションだったの。もう一度ヘルメットを被れるんだ、ということが喜びだったんだけど、でも毎週被っていると、次は「何のために?」となって来る。
小田嶋:月1のクラス会みたいな、変な感じになるんだな。最初は新鮮だけど、というやつ。
岡:そのうち、体を思うように調整できないとか、家族の理解を得るのが難しい、とかいう現実もチームに覆いかぶさるようになってきて。でさ、メンバーの中でも、昔アメフトをやっていて体育の先生になったという人や、刑事をやっている、という人は動けるんだよね。実際、一番動けるのは、現役の刑事2人。それから次に自営の人が動けるね。自営の人は毎日工夫して、トレーニングの時間をひねり出せるからさ。朝やったり、夜やったり、昼間抜けたりして。
岡さんもそれに入るわけですね。
岡:言われてみれば僕も自営に近いですからね(笑)。で、一番動けないのはサラリーマンです。それも僕たちの年代だと、営業本部長とかになっていて、時間ないよね、そりゃ(笑)。
小田嶋:ノハラなんかもそうだろう。
岡:ノハラは誘ったんだけど、やっぱり無理だったね。
小田嶋:モラール、もしくはモチベーションって、実は一番難しい問題でさ。俺、今、ミシマ社というところのウェブのコラムを書いていて。予告編で、次回はモチベーションについて書きます、と言って以来、1カ月書いてないの(笑)。
まずモチベーションについて書くモチベーションからして。
小田嶋:そこに書くモチベーションを持ってないのに、何でモチベーションの説教を自分ができるのかという、難しい……。
岡:何でそんなことを宣言するんだよ。
小田嶋:いや、自分的に一番興味があったから。
本当ですか。
小田嶋:いや、俺が講師をしているライター講座の生徒さんたちに言った説教を、俺自身が再録すればいいかな、と思って。だって何だか自分でいいことを言った気がしていたから。
岡:ちなみにどういうことを言ったのかな。
小田嶋:才能というのは天から授かったものだと思われがちだけれど、才能というのは、自分がどれだけ、ある対象に意欲を持っていけるのか、ということなんだよ、みたいな。もう少し言い方を変えると、唯一有効な才能とはモチベーションのことなんだ、ということ。
誉められたくて、誉められた僕は、途方に暮れた
とてもすてきなお話ですね。
小田嶋:そういう話をして、いい話だな、と自分で思ったのよ。モチベーションを常に高く持っていられる人がいれば、その人はコンスタントにいい仕事ができるはずだと。
で、それはどうやったらいいんですか。
小田嶋:そこなんだけど、それはどうやったらいいの、と言われると、すごく困るの。
・・・・・・。
岡:難しいよね。
小田嶋:ライターだって、コラムニストだって、最初に自分が書いたものが活字になったころには、非常に高いモチベーションを持っているわけ。載ったというだけで、すごくうれしいから。一度書いたやつを見直すのでも10回ぐらい見直して、これは「しかし」がいいか、「けれども」がいいかというようなところまでも、猛烈に気を配った原稿を書く。
で、そういう人がだめになるというのは、もともと上手だった人が下手になるわけがないので、つまりモチベーションがだめになっている、というわけだよ。だから功成り名を遂げたり、2億円とか貯金があったりしたら、文章書きみたいな、ものすごく面倒くさい作業は、たぶんできる仕事じゃないよね。
岡:不遇感とか、鬱屈感がないと逆に書けない、というのはあるだろうね。
小田嶋:でもあまりにもひがみっぽくなっていたりしていると、もう書く気持ちすら起こらないから、あと、もうちょっとだけ、という、うまいハードル設定が難しい。
俺が30代のころにアル中になっていたというのも、書いたものが活字になったり、自分の名前の本が出たりとかでは目標を達成したんだけど、かといって、ものすごく売れたわけでもない。そうすると新しいモチベーションってあんまり出てこなかったりして、そこで、やる気がすごくなくて飲んでばっかり、みたいなことになったんだと思うんだよ。
岡:僕の場合、分かりやすいのは、褒められる、ということですね。他者からの評価。
岡さんは電通時代の90年代後半に、広告界のメジャーな賞の3冠同時受賞を果たしました。で、その後、途方に暮れた、とおっしゃっていましたね。
岡:いや、あれ、もぬけの殻みたいになっていましたね(笑)。僕が感じているほとんどの理由は、褒められたいから頑張る、というだけであって、一応、一通り褒められちゃったら、その先はもう。
小田嶋:真空だよね。
ならば嫉妬はモチベーションになるか?
岡:しかも社員だったら、別にそれ以上褒められたって、報酬が上がるわけでもないし。で、アメフトの場合は、当たり前のことながら誰も褒めないし、もちろん所得は関係ないでしょう。そうすると、自分で褒めるしかない。自分で褒めるのも確かにモチベーションにはなるんだけど、でも、それも限界があるという。
小田嶋:繰り返せないよね、そんな自分を褒め続けるなんて。
岡:繰り返せないのよ。お前はよくやっているって、俺自身が言い続けるなんてさ(笑)。
小田嶋:だからコンスタントにちゃんと仕事をしているやつってさ、その目標設定のうまいやつだよ。
岡:小田嶋の場合は、活字になった後に、今度はその活字をいかに広く売るか、というようなハードル設定をしてもよかったはずなんだけど、お前はそういう方向には行かないだろうな。
小田嶋:行かなかった。行かないで、その場所に立ち止まってひがんでいた。どうせ売れないんだしさ、とか言って(笑)。
そこで「よし、今度は売ろう」と考えたら、就職した食品会社を辞めなかったですよね、第一に。
小田嶋:・・・・・その通りですね。しかも物を書く人間って、売れたいという気持ちを持っていても、売れるということをばかにする気持ちもどこかにあったりするから、そこはややこしいところなんですよ。
例えば嫉妬とか、そういうものが逆ベクトル的なモチベーションになることはありますか。
岡:どうかなあ。あの人のようになりたい、というよりも、むしろ、本来俺がいるべき場所にあいつがいることが許せない、というのが嫉妬だと思うけれども、僕自身はあんまりそういうふうには他人に対して感じないですね。だから嫉妬するやつの気持ちもよく分からないというか、俺が単に鈍いのか、結局、関係ないでしょう、他人は、という感じ。
小田嶋:嫉妬というやつはあっても、創作のエネルギーにはあんまりならないんじゃないですかね。
岡:創作のエネルギーにはならないと思うね。
小田嶋:嫉妬というやつは、人によってメカニズムが全然違うのかもしれない。俺なんかが嫉妬というか、不快に感じるのは、例えば自分より低いと自分では思っている人間が、自分より高い評価を得ていることに腹が立つ。
岡:そうだよ。だから自分ができるポジション、自分がいてもいい場所に誰かがいる、ということは不快だよ、はっきり言って。
キムタクなら立たない腹が、あいつがモテるとなぜ立つのか
小田嶋:キムタクがもてても、別に腹が立たない。そうじゃなくて、俺よりかっこ悪かったり、俺よりばかだったりするやつが、俺よりもてているというと、何か違っているんじゃないだろうか、とむかむかする。それは折り合いが付きにくい。
岡:僕が一番嫉妬したのは、マージャンをやっていて小田嶋だけがツいていて、まったく俺がツいてないという日があったときだよ。
小田嶋:ゴルフをやるとよく分かるんだけど、明らかにうまいやつに負けてもそんなに腹は立たないんだけど、そうじゃなくて、何かこいつはずるいぞ、というやつがいたりすると、むっと来るぞ。
それは義憤というやつですか。
小田嶋:理不尽に対する何か不思議な感情。
岡:合理的なものではないよね。
小田嶋:嫉妬って、人によって持ち方とか、解釈とかの違いがあるんだろうけど。
岡:でも、確かにいるね、嫉妬深い人というのは。言われてみれば、いる、いる。
というか、永田町方面なんかを見ていると、何か世の中を動かす原理はそれだ、という感じがしますが。
健康な嫉妬と、なんでもねたむ人
岡:そうだね。創作のエネルギーにはならないけど、別のいろいろなエネルギーにはなっている。何か策略をめぐらせるときのエネルギーは、確かに嫉妬もありですよね。
小田嶋:でも、政界がどうかは別にして、そういう健康な嫉妬、と言っては何だけれども、自分が本来、彼より高く評価されるべきだと考えるタイプの嫉妬は、まだそんなに問題はないと思うわけだよ。そうじゃなくて、何だか知らないけど嫉妬する人って、いるじゃないか。とにかくキムタクがもてているのが気に食わない、みたいな感情を持つやつ。あれはよく分からない。
岡:そうだよね。それを考えていてもしょうがないというかさ。そういう嫉妬深い人の気持ちはよく分からないし、嫉妬を受けたら確かに悩ましいと思うけれど、でも、される方がいいんじゃないの、する人生より。
出ました。では、お2人はオバマに嫉妬しますか。
岡・小田嶋:しません。
撮影協力 : Cafe 杏奴
※当時は東京都豊島区のお店でしたが、現在はリンク先に移転されています
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