※この記事は日経ビジネスオンラインに、2014年8月26日に掲載したものを再編集して転載したものです。記事中の肩書きやデータは記事公開日当時のものです。

 本連載は、昨年(2013年)まで米ビジネススクールで助教授をしていた筆者が、世界の経営学の知見を紹介していきます。

 さて、最近は以前にも増して、日本中で起業への関心が高まっています。今年(2014年)6月に発表された安倍政権の「骨太の方針2014」でも、日本を「起業大国」にすることがうたわれました。実際、最近は会社勤めの方々の中に、将来の目標として「今いる会社を辞めて起業」を意識される方が多く出てきています。

 他方で、起業に関心はあっても、及び腰の方も多いのではないでしょうか。起業はリスクが高いですから、会社勤めで安定収入を得ている方には勇気のいることでしょう。実は、最近の経営学では、この起業リスクの軽減となる考え方が注目されつつあります。

 それを、ハイブリッド・アントレプレナーシップ(Hybrid Entrepreneurship)と言います。本稿では「ハイブリッド起業」と呼ぶことにしましょう。

ハイブリッド起業家は、世界では珍しくない

 ハイブリッド起業とは、「会社勤めを続けながら、それと並行して起業すること」です。要するに「副業として起業する」わけです。

 日本では、起業というと「会社を辞めて起業するか、辞めずに起業をあきらめるか」の二者択一と思われがちです。しかし世界的にみると、ハイブリッド起業はきわめて一般的な形態であることが、近年の調査で明らかになりつつあります。

 例えば、英クランフィールド大学のアンドリュー・バーケたちが2008年に「スモール・ビジネス・エコノミクス」に発表した研究では、英国の1万1361人を対象にした調査から、「完全に独立した起業家(以下、フルタイム起業家)」よりも、会社勤めを続けながら起業する「ハイブリッド起業家」の方が多いことを明らかにしています。

 他の調査でも、フランスでは全起業家のうちの18%、スウェーデンでは32%、オランダでは68%がハイブリッドとなっています(注1)。1997年の米Inc Magazineの「急速に成長しているスタートアップ500」特集では、500社のスタートアップCEO(最高経営責任者)の2割が、「起業後もしばらくの間は、前の会社で働いていた」と回答しています。

注1:Strohmeyer, R., V. Tonoyan. 2006. Working part- or full-time? The impact of welfare-state institutions on atypical work forms. Dowling, M., J. Schmude,eds. Empirical Entrepreneurship Research in Europe. Edward Elgar, Cheltenham.

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