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怒りを引き起こす、もとになる感情に気づくこと

 何で怒っているのか、自分でも分からない。なのに、無性に怒りが込み上げてくる。正体不明の怒りに、悩まされた経験はないだろうか。

 ある晩、バーのカウンターで飲んでいた時のことだ。隣に、40代と思える男性が酔っ払ってしきりに文句をいっている。

「課長は何も分かっちゃいないんだよ。なぁ、キミ」

 カウンターの中にいる、若いバーテンダーは曖昧に頷くだけだ。そのうち私に向かって、「ねぇ、お客さん、そうでしょう」。

 彼はいったい何に腹を立てているのか。聞いてみると、自分の提案が上司に却下され、後輩の案が採用されたのが、「おかしい」「けしからん」というのだった。

「課長はどうかしてますよ。おまえのアイデアは分かるけど、企画書の書き方がなってない。それに詰めが甘い。それじゃ、誰もOKなんか出しっこない。だいたい、おまえは仕事を甘くみてるんだよと、私をけなすばかり。ね、ひどいでしょ。こっちのアイデアの斬新さが、課長の頭じゃ理解できないんだ。要するにセンスがないから、企画書の書き方がどうのこうのと、文句をつけてるんですよ」

 彼に言わせると、課長はどう見ても自分より劣る後輩を引き立てて、自分をないがしろにしている。それが癪にさわって、怒っているようなのだ。

 彼の怒りを引き起こしているのは、後輩に対する嫉妬であり、自分の企画力への不安である。

 怒りの感情には、それを引き起こしている怒りのもととも言うべき感情がある。これを「一次感情」と呼ぶ。彼の一次感情は、恐らく「不安」であろう。

 誰の心の奥にも、「不安」の感情は潜伏している。

 部下の建設的な意見に反対を唱える上司は、あたかも自分が何もしてこなかったことを非難されるのではないか、との不安に脅かされているものだ。

 怒りの感情を表現する際、自分の一次感情に気づくことは大事である。でないと、自分でもよく分からないまま、強がりを言い張って怒ってしまうことになるのである。

 あの酔っ払っていた彼は、最後に私に「本当はね、オレ、不安なんですよね」。

 この一言で、私は彼に好意を持った。〈上司にその一言を言えたらな〉と願った。