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 先日、気分が落ち込みそうな暗い顔の人と、エレベーターを降りようとしたところで鉢合わせになった。

 一歩も下がらずに立ったままでいるその男に、短気な私はムッとした。その瞬間、Kさんならどうするだろうかという思いが頭をよぎった。

 もしかすると、ニコっとして「こんばんは」。こんな言い方をするのかな。

 Kさんという人は恐らく、感情的にはなるものの、強く吹き出すことはしない自分をよく承知しているのだろう。

 人それぞれに、怒りの感情の抱き方には癖がある。これも知り合いの男性だが、日頃はおとなしくて、決して怒ったりしない。ところが何かの拍子に、思いがけない激しい言葉を口にするのだ。

 彼も自分で分かっているらしく、「特に酒を飲みすぎると、勢いで強いことを言ってしまうんで、気をつけているんですけどね」。頭を掻きながら、申し訳なさそうな顔をしたものである。

 彼の場合、相手の強引なやり方を普段から内心では〈あれはひどい〉と感じて、怒りの火を燃やしているのだが、外見は温厚で、怒りなど感じない人のように見える。

 正義感が強く、曲がったこと、間違ったことに対して、すぐに熱くなり、相手に食ってかかる知人がいる。並んでいる列に、人が割り込んできたりすると、相手がどんな人間であろうと、「ちょっと、並んでいるのが分からないのか、一番後ろに行け」などと怒り出す。

「うちの妻に、やめて下さいよ、危険な目に遭ったら大変ですから、と注意されるんですが、性分なのか、すぐに血が騒ぐんですよ。もっとも、近頃は強い口調にならないように気をつけています」

「許せない」が口癖になっている人

 世の中には、「許せない」と言って怒り出す人がいる。

 自己イメージを否定されたり、自分の苦労を分かってもらえなかったりすると、「私がこんなに頑張っているのに」とか「私がそんな人間だと思っているんですか」と急に大きな声を出して、「許せない!」と怒る。

 自分が正当に評価されないことへの怒りで、「許せない」と言うのが癖のようになって、被害妄想の怒りに転じることもあるので、怒った後の振り返りが大事だろう。

 怒りにもいろいろある。自分がどんな時にどんな怒り方をするか、その傾向を承知しておくのは、怒りの表現を工夫するのに、役に立つだろう。