本記事は2009年2月13日に「日経ビジネスオンライン」の「人生の諸問題」に掲載されたものです。語り手の岡 康道さんが2020年7月31日にお亡くなりになり、追悼の意を込めて、再掲載させていただきました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

(日経ビジネス電子版編集部)

(アツシさんって何者? 前回から読む

岡 敦氏

岡 敦氏 (写真:大槻 純一、撮影協力:「Cafe 杏奴」※当時は東京都豊島区のお店でしたが、現在はリンク先に移転されています)

アツシ:古い人間だな、と自分でも思うんですが、僕はスポーツに人生を学んじゃうところがあるんですね。特にボクシングとかには、人生を学びますよね。学ばないですか。

小田嶋:ボクシングは俺、大好きですよ。学ぶかどうかはともかく。

アツシ:80年代のミドル級スターウォーズって知ってます?

小田嶋:レナードとかデュランとか、ってやつか?

アツシ:そうそう。マービン・ハグラー、トーマス・ハーンズ、シュガー・レイ・レナード、ロベルト・デュランという4人のボクサーたち。もし時代がずれていたら、それぞれ10年間、無敗の世界チャンピオンだったんじゃないか、と思われるようなやつが、なぜか同時代に4人集まっちゃったんです。

:それで何度も対戦しているの?

アツシ:そうそう。10年間かけて4人が総当たり戦を組むわけですよ。4人とも、その4人同士でぶつかるとき以外は負けないんです。それを10年間続けるという。

コラムニスト 小田嶋隆氏

コラムニスト 小田嶋隆氏

小田嶋:そういう時代があったよね。

アツシ:あった。それがミドル級のスター選手たちだったもので、ミドル級スターウォーズと呼ばれているんです。あれは素晴らしかったですね。人生への向き合い方とか、あるいはキャラクターの違いみたいなものが、それぞれに色濃く出ていてね。ああ、世界はこうやってキャラクターの違う人間同士が集まって星座をつくっているんだ、みたいな、そういう何かしらの世界観を学んじゃいますね。

遠い遠い昔、「スターウォーズ」がミドル級にあった

:僕の友達にボクシングの好きなやつがいてね、その80年代のミドル級スターウォーズで“石の拳”といわれた・・・・・・誰だっけ?

小田嶋:ロベルト・デュランね。

:デュランと何だっけ、もう1人。3回ぐらい戦っている。

アツシ:レナードね。

:レナードか。その試合のビデオが見たいと言うから「確か弟が持っていたと思うよ」ってアツシに連絡したんだよね。そうしたら「何回目の戦い?」って即座に聞かれて。ああ、この入れあげ方は本物だな、と思いましたね(笑)。

アツシ:いや、今のボクシングをテレビで見るんだったら、ミドル級スターウォーズのビデオを見た方がいいですよ。

クリエイティブディレクター 岡 康道氏

クリエイティブディレクター 岡 康道氏

:すごい?

アツシ:すごい。だってロベルト・デュランというのは、もともと70年代を代表するボクサーなんだからね。70年代の10年間で誰が最も優れたボクサーかと言えば、モハメド・アリと言う人もいるかもしれないし、ジョージ・フォアマンだと言う人もいるかもしれないけど、やっぱりデュランでしょう。デュランというのはですね、パナマのですね―― こんな話をしていいのかな。

いいです。

アツシ:パナマの貧乏人の子供なんですよ。観光客を相手に、帽子を前にぽんと置いてダンスを踊って見せて金をもらって食っていた、と、そういうやつだったんですね。ただパンチ力だけはものすごくあって、あの馬を倒せるか、というような賭けをして、実際に馬を殴り倒したという伝説を持っているんです。

 彼がなぜボクサーになったかといえば、金持ちの家に木があって、果物がなっていたんですね。それを盗みに行こうとして、塀を越えて入って行って捕まっちゃったんですよ。ところがその金持ちがなぜかボクシング好きで、じゃあ、俺がマネジャーをやるから、お前が選手になれ、という成り行きで、デュランを選手に育てたというんです。

小田嶋:漫画みたいな話だよね。

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