締め切り前の人みたいな。
アツシ:性格的にだらだら勉強するのが好きなタイプではなくて、やるんだったら死に物狂いというタイプなんだよね。
岡:うん。しかも悪しき仲間は小田嶋だけじゃないわけですよ。小田嶋が帰ったってコヤナギが来る、みたいに、何人かいるんだから。
小田嶋:高校生ってみんなそうなのかもしれないけど、人を圧倒するための何かを常に隠し持っていないとだめなんだよ。こいつとキャッチボールをして嫌なのは、すごい球を投げてくることですよ。岡は中学校の野球部でエースだったけど、こっちは素人でしょう。キャッチボールなんて女投げじゃないかというぐらい。そういうやつを相手にして、最初は2球ぐらい緩い球を投げてくるんだけど、その後に、もう絶対にとんでもない球を出すんですよ。
大人げないボールを投げてくるんですね。
小田嶋:あらら、今の取れなかった? とか言って。取りたくないよ、あんな球。
岡:面白いんだろうね、要するに。
自分が優位に立つ面白さですか。
岡:もちろん優位ということもあるけど、ただ面白いんだよ。
アツシ:何か人を巻き込んで悪ふざけをすることが好きなんですよね。それで1人で何かやるということはないんだよね。身近にいる人はみんな何らかの形で犠牲になっていると思います。僕は子供のころ、ポリオで左腕が動かなかったんですね。そのころぜんそくになったりもして、野球なんかやりたくもない人間だったんだけど、おい、右投げ左打ちは有利だぞ、と兄貴に言われて、なぜか利き腕を無理やり改造されて。
小田嶋:岡は本当にあのまま野球をやっていればよかったのに。実際、かなりいい幻想を持ってもいいレベルの選手だったよ。でも、こいつは早々と撤収するんですよ。
アツシ:高校に入る前かな。野球で幻想を持っていたときと、幻想を捨てるときの間の停滞の時期に、俺はドラフトで指名されるんだけど、それを蹴って大学へ行って、みたいな、そんな道筋を語っていましたけどね。
岡:それはもう撤退の準備に入っていたんだよね。実際、セレクションに落ちていたわけだから。
手仕舞いが早いんですね。
小田嶋:きっと1番じゃなきゃ嫌だからなんでしょう。岡の投げていた球の潜在能力からすれば、もし本気で取り組んで、昼夜分かたず努力すれば、そこそこの選手になったかもしれないんですよ。でもそういうのは嫌なんですよ、こいつは。ろくに練習もしないで、楽勝で投げて、それでドラフト1位にかからなければ、野球なんかやりたくないわけだ。
岡:中学を出て高校の野球部に硬式野球部がない状態で陸上をやろうと思ったときは、メキシコ・オリンピックでフォズベリーが活躍した記憶が強くあった。そうしたら、じゃあ、今度はフォズベリーになってみようかな、って(※フォズベリーについてはこちら)。
小田嶋:文京区大会だか何だかというマイナーな大会があって。
岡:文京区の新記録だったんだよ、俺。
小田嶋:それでお前はいいとこまで行ったんだよな。
努力によってはどうしようもないものに、どう向き合いますか
岡:都大会とかにも出たんですね。小石川の陸上部で予選を勝ち抜いた唯一の人間だったんだけど、でも都大会はレベルが全然違ったね。だってみんな高さ160センチくらいから始めるんですよ。僕は140センチぐらいから始めないと体が温まらないのに、みんながパスしているから、僕もパスせざるを得ない。そうしたら初回が165センチ、170センチとどんどん高くなって、そろそろ跳ばないとな、と思ったら、もう跳べやしない。結局、記録なしでバーも折っちゃって、あまりにも恥ずかしくて、スタンドで見ていた仲間のところにも帰れなかった。とはいっても、顔は笑っているんだけどね。それでその大会では保善高校のやつが、日本の高校生で初めて2メートルを跳んだんですよ。それをすぐ近くで見ていたから、もうびっくりして、いや、高跳びなんて、こんなの絶対やめようと思った。さようなら、ということですよ。
小田嶋:利益のないところは即撤収なんだよね。
なるほど。日本陸軍をやらないわけですね。
小田嶋:最後の一兵卒が窮地を凌いで、崖を登ると・・・・・・という展開が岡にはないよね。
岡:そんなのはないですね。だって、それは努力によって何ともならないしね。2メートルを跳んだやつは、全然違う種類の人ですもん。そういうやつだって、結局、日本代表とかにならないもんね。僕、名前をずっと追いかけていったんだけど、その先にさらにいくらでもすごいやつがいるんだよ。
アツシ:それでアメフトを始めたら始めたで、また周りを巻き込んでいくんだよ。アメフトのキャッチボールも僕はやらされた。それだって単にキャッチボールの相手というだけじゃなくて、特訓をするんです。
小田嶋:俺、アメフトのあれも付き合ったな。
付き合い、いいですね。
小田嶋:嫌だと言うんだけど、とにかく見るだけ見てみろよ、みたいなことで。
アツシ:まあ周りの人間は被害者なんだけど、でも何か乗れば面白いかな、という感じはさせるんですよ。

最近、岡さんはアメフトのシニア・チームも立ち上げられて。
岡:そうなの。「U-59(アンダーフィフティナイナーズ)」というんだけど。59歳まではともかくがんばろう、という意味。新聞や雑誌でいろいろ取り上げてもらって、30人くらいのチームになったんですよ、おじさんたちの。それで毎週末に多摩川のグランドで練習をしているんだよ。連休には合宿もしたし。
体は大丈夫なんですか。
岡:やっぱり、40歳を過ぎてアメフトを再びやろう、という人って、ある程度自信があるわけじゃない? この歳になって今さら見知らぬ集団に飛び込んでいくということだから、みんな普通のおじさんじゃないのよ。トライアスロンをやっていたり、自転車競技をやっていたりとか、普段から体を鍛えていて、ちょっと腕に覚えがあるわけ。だから、子どもの幼稚園の運動会に出た父兄みたいな、みっともない人は1人もいない。
わりと身体的にはちゃんとしている、と。
岡:でも、次の日に、腕が動かないとか、ちょっと仕事を休んでいるとか、そういうことはあるんだけど。
あぶないなあ。
岡:その前に、みんなで練習している姿が、かなりおかしなわけです。おじさんにしては異常にでかい人たちが、川原である程度の動きを続けているのは、かなり奇妙なものです。遠くから見ると、何となくサマになっているんだけど、ヘルメットを脱ぐとハゲてる、みたいな。だから、ある種の変態的な集団になっちゃっていますね、今。
(次回、番外編。アツシ氏大暴走)
撮影協力 : Cafe 杏奴
※当時は東京都豊島区のお店でしたが、現在はリンク先に移転されています
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