本記事は2009年2月6日に「日経ビジネスオンライン」の「人生の諸問題」に掲載されたものです。語り手の岡 康道さんが2020年7月31日にお亡くなりになり、追悼の意を込めて、再掲載させていただきました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

(日経ビジネス電子版編集部)

前回に引き続き、岡康道さんの弟、岡敦さんが、みずから被害を受けた「小田嶋隆の“冷笑癖”」に鋭く迫ります。

アツシ:高校生のとき、小田嶋さんから兄貴に電話で誘いがあったんですよ。その内容が、「おい、“文学少女”がいるから見に行かないか」というもので。

それ、ひどい言い方ですね。

小田嶋:今から思えば、とても意地が悪かったですけどね。

少女に気があるんだけど、その、気のある自分を冷笑して、そういう言い方になるわけですか?

小田嶋:いや、俺に関しては、それはなかったと思いますよ。

アツシ:ひどいですよ。

クリエイティブディレクター 岡 康道氏

クリエイティブディレクター 岡 康道氏 (写真:大槻 純一、撮影協力:「Cafe 杏奴」※当時は東京都豊島区のお店でしたが、現在はリンク先に移転されています)

:うん、ひどい、ひどい。

ひど過ぎる。

:小田嶋のためにちょっと弁解してあげると、小田嶋は気があったって「見にいこう」、なんて言わないですよ。

小田嶋:好きな子はもう、じっと遠くから見て。

しかし、それをやっていたらモテないでしょう。

小田嶋:そういう意味ではモテなかった。

:もちろん僕らはモテないですよ。

小田嶋:だいたいモテるとか、モテないとかという高校じゃなかったですよ、本当に。

でも、モテたいとは思っていたんでしょう。

小田嶋:それは思っていたけど。

:とはいえ、それを第一義にする麻布や慶応のやつらを鼻で笑っていましたよ、あいつら、気楽でいいよな、とか(笑)。

ちょっと苦しいですね。

コラムニスト 小田嶋隆氏

コラムニスト 小田嶋隆氏

小田嶋:でも俺たちが高校生の当時は、モテるという言葉がまだなかったような気がする。

:あったよ。

小田嶋:いや、モテるという言葉はあったけど、モテるということに価値を置く文化はまだ蔓延していなかった。「POPEYE」が創刊される前で、5人の女の子からチョコレートをもらうのは偉いぞ、みたいな感じというのはなかったんですよ。

アツシ:高校生のころは2人とも、もっとまじめというか、もっと真剣にものを考えていたよね。この2人、実は思想書を読み、文学を読み、と相当真剣に考えていましたよ。

読書会をしていたんですものね。(第1回「「文体模写」「他人日記」「柿」 」参照)

2人の背を追って、気づいたら前に誰もいない

:でも、よく分かってなかったよね、真剣ではあったんだけど。

アツシ:だから僕こそいい迷惑で、そうか、こういう本を読んで勉強しないといけないのか、とか、そういうふうに考えなきゃいけないのか、とか、真に受けて実行までしてみちゃった。それである日、ふと2人を見たら、どっちも何もやっていなかった。

:アツシはそのおかげで独房を体験しちゃったからな。

アツシ:男なら殴り込みに行かなきゃだダメだ、みたいなことを2人が熱く語るので、その気になって1人でやくざを殴っているんだけど、俺、これからどうなるの? みたいな感じだったよね。

小田嶋:独房はまずいよね。

アツシ:だって2人は入っていないですからね、独房に。

:一度も入ってない。そりゃ、逮捕されるようなことをしたら、まずいでしょう。

小田嶋:我々は遠くから石を投げていただけ。

岡 敦氏

岡 敦氏

アツシ:そうはいっても、2人とも真剣に考えてはいたんですよ。それはよく伝わってきた。

小田嶋:高校生だからね、それはやっぱり、ある種、純粋なんですね。その高校生の幻想を、中学生が真に受けちゃうんだから、これはもうたちの悪い詐欺としか言いようがないよね。

アツシ:中途半端でどっちにも行きようがないみたいな状況の打破の仕方として、小田嶋さんの存在はある意味、反面教師みたいなところがあった。

 小田嶋さんは相当高いレベルで冷笑する技術というものを持っている。そのスタイルに到達しなければ、冷笑したってこっちはしょうがない、と僕なんかは圧倒されていたわけです。だったら、端から見てばかみたいに見えたって、あえて理念を真に受けて進んだ方が、可能性があるんじゃなかろうか、という戦略をその後、とってしまって。

小田嶋:一度屈折して、実直な方向に行ったんだね。

アツシ:兄貴みたいに現実をゲーム化して楽しんじゃうというあのノリノリの感じは、僕にはなかったので。

:そう言われると、俺がばかみたいだな。

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