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 同じように、職場に問題児が居た場合、日本ならば「あいつには困っちゃうよ」とあからさまに言うことがあるでしょう。欧米ではあり得ません。微妙な言い回しでその人への不満を伝えるのです。顧客とのトラブルが絶えない社員については、そのことに触れないで、「彼に資料づくりを任せたら天下一品なんだ。顧客係じゃもったいないよ」といった具合です。つまり、顧客係としては、だめだという意味です。

 遅刻常習犯の部下には、「朝寝坊は君の欠点だね」と言う代わりに、「早起きは君の最高の強みではないよね」と言います。

 言葉の観点からこれらの話を考えると、出てくる単語はすべて褒め言葉です。「素晴らしい」「うまい」「秀逸だ」「努力家」「まずまずの出来」「健闘している」といった具合です。この中から微妙な差を感じとって相手の本音を測るのが英米文化です。

 この差はかなり敏感なセンサーを持ち合わせていないと分からないでしょう。読者のみなさんにも最終的にはこのテクニックを身につけていただきたいと思います。ただし、そのためには基礎から学ぶ必要があります。まずは世界標準の英語を覗いてみましょう。

世界標準英語はgoodとbadだけ

 世界標準の英語は微妙さのない白と黒の世界。中間的なくすんだ色合いのない世界です。

 テレビドラマの世界では必ずいい者と悪者が居るように、何かを形容する言葉は大きく分けると、goodとbadに分けられます。綺麗だ、速い、安い、誠実だ、おいしい、などはどれもgoodの仲間であり、その反対がbadの仲間になります。

 世界標準の英語は、ほとんどこのgoodとbadで済ませています。

 ぼくはアラビアに住んでいたとき、アラビア料理をよく食べに出かけました。あるとき、自分がいつも食べている料理の味が少し違いました。そこで、給仕をしているなじみのレバノン人に、
「いつもと味が違いますね。」
 と英語で言いました。すると、
「違うとはどう違うんだ?」
 と聞くのです。今日はシェフが休暇中で、代わりの人がつくっているとのことです。
 彼は加えて、
“Good or bad?”
 と言いました。つまり、いつもよりうまいのか、いつもよりまずいのかをどうしても聞きたいのです。

 日本人の読者のみなさんなら、ぼくの言いたいことはもう分かっているでしょう。いつもより良いなら、「今日はいつもより良いよ」と言い切っているはずです。つまり、ぼくはいつもより劣ると言いたかったわけです。

 「違う」と言っただけでは、そのニュアンスは伝わらなかったようです。しかし、いくらなんでもレストランに来て、「まずい。(bad)」と言うのはためらわれました。あまりに失礼な発言だからです。

 それでも、給仕の人はぼくの答えを待っています。
 「仕方がないや。正直に言っちゃえ。」と思って、
“Bad.”
 と言いました。すると、彼は「分かった」と安心したように、ぼくのテーブルを離れたのです。「まずいとは何だ」といった気色ばんだ様子は微塵もありませんでした。goodとbadしかない世界の人から考えれば、ぼくの発言は「まずい!」には聞こえなかったのかもしれません。

not very good の本当の意味は「かなり悪い」

 世界標準の英語は確かに、goodとbadの二元論になっています。しかし、みなさんにはbadは薦めません。もう少し上品な英語を話しましょう。みなさんにお薦めする英語表現は
very good
good
not very good
 の3種類です。面と向かってbadを使う機会はあまりないと言っていいでしょう。