※この記事は日経ビジネスオンラインに、2014年7月29日に掲載したものを再編集して転載したものです。記事中の肩書きやデータは記事公開日当時のものです。

 本連載は、昨年(2013年)まで米ビジネススクールで助教授を務めていた筆者が、世界の経営学の知見を紹介していきます。

 さて、最近はCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)という言葉が日本でも定着してきました。CSRとは「民間企業が利益だけを優先するのではなく、幅広いステークホルダーを重視しながら社会に貢献する」ことを指します。環境保護活動や、途上国への支援活動はその代表例です。

 他方で、CSRにはいまだに懐疑的な声もあります。もちろん企業が社会に貢献するのは素晴らしいですが、それにはコストがかかります。「収益をあげるのに必死の民間企業に、社会活動をする余裕はない」という方もいるでしょう。

 こういう批判を受けてか、最近はCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)という、社会貢献とビジネスを融合させた考えも出てきました(日本では、キリンがCSVに取り組んでいることがよく知られています)。いずれにせよ、純粋な社会貢献であるCSRは「企業の『金食い虫』になりかねない」という懸念は残ります。

 しかし、もし「CSRが意外と儲かる」ならどうでしょうか。

 「CSRが企業業績にプラスかマイナスか」という疑問は、多くの皆さんが興味あるところでしょう。実は、世界の経営学では「CSRは企業収益に貢献する」という研究結果が、近年多く出てきています。さらに、CSRの副次的なプラス効果も指摘されています。もしそうなら、私たちは「CSRは金食い虫」という考え方を改めなければなりません。日本企業への示唆もありそうです。

 今回は世界のCSR研究の、最新の知見を紹介していきましょう。

CSRは企業の業績を高めるか

 「CSRが業績にプラス」という可能性は、これまでも一般メディアやCSR推進派の方々から主張されることがありました。しかし、大体はこういう場合、1社か2社の成功事例をとりあげて、なんとなく「業績にもプラスではないか」と述べるぐらいだったはずです。

 それに対して海外の経営学では、 企業のCSR活動とその後の利益率・企業価値との関係について、大量の企業データを使った統計分析が多く行われています。特に米国では、KLD Research and Analytics社が開発した信頼性の高いCSRデータベースがあり、多くの研究者がこのKLDデータから企業のCSR活動の熱心さなどを指数化して、企業価値・利益率との関係を分析しているのです。

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