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 いやぁ、実に醜い。

 常務は責任を取りたくなかったし、減給されるのもいやだった。「自分の責任だ」と非を認めれば、自分の社員に対する求心力が落ちるのではないか、という不安もあったかもしれない。何とも品の悪い上司の典型、と言わざるを得ない。

 でも、人間はいざ自分に火の粉がかかりそうになると、信じられない行動も取ったりする。「人間くさい」と言えなくもないが、代わりに火の粉をかぶる部下はたまったもんじゃない。

 しかも、そんなに無責任な上司と仕事をしていると、ストレスに対処する力が失われる恐れがあるので、ただごとではない。ストレス対処する力に必要な、把握可能感が低下してしまう危険があるのだ。

 把握可能感は、ストレスに対処する力=SOCを構成する3つの感覚の1つで、「自分が遭遇した困難がどういう状況にあり、なぜそれが起こっているのか?」について、秩序立てて説明できる感覚である。

 人間にとって、最もストレスフルな状況は「自分が遭遇している困難が何か理解できないこと」。「その困難が何で、なぜ起こっているか?」が分からないと、なすべきことが選択できずに途方に暮れ、ストレスが強まることになる。

 例えば

 「言った、言わない」の無責任上司に、責任転嫁され、
 「俺は1回だって言われてないのに、どうなっているんだ?」と動揺し、
 「ふざけるな!」と怒りが湧き上がり、
 「え? 俺かよ?」と戸惑い、
 「俺はこれからどうなるんだ?」と不安に思う。

 そんなネガティブだらけの感情に陥れば、大抵の人は混乱する。

 この凹んだ混乱した気持ちから抜け出すには、遭遇している事態を把握し、「自分が何をすべきか?」を考え、事態に対処する必要がある。把握可能感は、事態を処理するうえで大きな役目を果たすのである。

 ストレスに対処する力(SOC)は環境で作られ、親子関係や職場の上司・部下関係が特に強い影響を及ぼす。SOC理論を提唱したイスラエルの健康社会学者・アーロン・アントノフスキーは、把握可能感を高める環境について次のように述べている。

 「調和している物事や、満足いくように説明される未知のことや、秩序立ったパターンを繰り返し職場(家庭)で経験することは、把握可能感を高める」。

 つまり、
・ 「言った、言わない」と言って、部下に責任転嫁をする上司
・ コロコロと態度を変える上司
・ その場の感情で、決定事項を簡単に変える上司
 
 などの“ブレやすい上司”は、

・ 物事の調和を妨げ
・ 説明不可能な未知の状態を生み出し、
・ 無秩序なパターンを繰り返す

 という、“一貫性のない上司”と考えることができる。

 そんな上司と毎日顔を合わせ、日々振り回されていると、部下の把握可能感は次第に低下させられてしまう危険性がある。

 一方、「ブレない、一貫した上司」に巡り合うことができれば、それまで把握可能感の低かった人でも、把握可能感を高められる。部下のストレスに対処する力が高められるか否かは、上司の態度にかかっているのである。

 私は常々、人生上の困難やストレスを「雨」に例えているが、空から降ってきた雨が、にわか雨なのか? 台風による雨なのか? ゲリラ豪雨なのか? シトシト降り続く雨なのか? が分からないと準備もできない。