:まあ、そうかもしれないな。

小田嶋:お前が覚えているかどうか分からないけど、高校のときの倫社の先生が、「君たちに評価は付けられない」というようなことを言って、全員に研究発表みたいなことをさせたわけ。レジュメを切って、大学のゼミみたいなことを授業にしたかったんだろうけど、岡と俺は太宰治をやったのよ。覚えている?

:覚えていない。

小田嶋:それで発表したのよ。

:一緒に?

小田嶋:一緒に。

:2人で?

忘れているし。

:忘れてたよ。

小田嶋:結局、人は大人になる、社会と適応するためには、嘘吐きになるか、馬鹿になるか、でなきゃ死んじゃうしかないんだ、という、そういうミもフタもない話になって。それは結構手ひどい反響があったのよ。

:俺は何を担当したの?

小田嶋:太宰治は死んじゃったわけだけど、我々は嘘吐きか、悪党か、馬鹿か、いずれの道を選ぶべきか、と。お前はきっと、悪党を担当したと思うよ。そうでなければ馬鹿の方だな。

クリエイティブディレクター 岡 康道氏

:面白そうじゃない? それを高校生が書いたんだったら。

小田嶋:面白そうでしょう。そういう発表をしてクラスのやつらから感想が来たりしたんだけど、あまりにもひねくれている、という意見が多かったね、やっぱり。

:手ひどいというのは、クラスのやつらの評価のことか。

小田嶋:そうそう。クラスのやつらに酷評されました。

:研究したことは覚えていないけど、何か嫌な手紙をたくさんもらった覚えはある。

小田嶋:評価は匿名だったのよ。

:でも発表は実名だろう? 岡、小田嶋というのは出席番号で並んでいますから。

そういうことだったんですか。

小田嶋:いや、そういうことじゃなく。

:じゃなかったの?

出世に邪魔になるものが、心に残るものを作らせる

小田嶋:だから、それは結構、恥に属することだから。でも、そこで発表したときから今にいたるまで、そう遠くには行っていないということです。

:その違和感は、高校生のときには、はっきりとした形を作れなかった。でも、今は、「この宣伝部長は本当のことを言っていないな」ということが分かるとか、もう少し具体的になってきているわけだから(笑)。でも、違和感が広告を作るときの大きな動機になっていることは確かだと思うし、感じている間は作れるとも思っている。

違和感って、大人にとって邪魔になったりしませんか。

:もちろん大いに邪魔になる。会社で出世しようとしたらね。

小田嶋:そうは言うんだけれども、やっぱり思春期に感じた違和感だったり、大人になることへの不安だったり抵抗だったりは、実はみんな基本的に持ってはいて、普段は抑圧していたりする。だから、岡の作る妙な手触りの広告が、不思議に心に残ったりするんだと思いますよ。

:嫌う人は嫌うんだよ、これがね、本当に。

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