小田嶋:俺なんかが手書きで卒論を書いていた時というのは、80枚書いただけで、お前、いいよ、ということだったのよ。序論から展開して、ちゃんと結論に落ちていなくても、とにかく書いてるうちに80枚来たから終わりにします、みたいなやつがオーケーだったの。でも、今はそういう論文はだめでしょう。ウィキペディアやグーグルがでてきて、コピー&ペーストが普及しちゃうと、それらしい引用なんかをしてもすぐ見破られて、ちゃんと論旨が展開して落ちていないとだめだぞ、と本質を問われてしまうような。

:そういうのが、いいのか、悪いのかは、微妙だなあ。だいたい僕はコンピュータをいじってないせいなのか、パソコンそのものの価値とか、位置づけからしてよく分かっていなくて。今日、クライアントであるパソコンメーカーのイメージ調査というものを見てみたら、それは広告表現とはまったく無関係にできあがっていたんだよね。じゃ、俺たちが作っているパソコンの広告って、何なんだろうか。俺たちは、どうしたらいいんだろうか、って分からなくなってしまったところなんだけど、ちょうど。

小田嶋:どういうところで分からないの?

:この間見たアメリカのパソコンメーカーはパーソナル・アゲインとかいうキャッチフレーズを使って、パソコンは個人的なものだよ、個性なんだよ、みたいなことを打ち出していたんだけど。個性といっても、何がパソコンの個性なの? たとえば、あれで独自な何かを作っている人っているの?

小田嶋:それは今のパソコンが昔とはずいぶん違って、家電みたいになってきたからでしょう。昔は、たとえば粘土みたいな、何かをつくるための素材だったんだよ、パソコンって。この粘土はこねようになって湯飲みにもなるし、急須にもなるよ、というもので、だから、こねる側に腕がなければいけなかった。

ミクロコスモスからネットへの窓に

:でも今はパソコンって、コモディティ化したわけじゃない? 誰でもが手軽に扱える家電ツールでしょう。

小田嶋:そう。しかも今はもう、圧倒的にインターネットへの窓だよね。でも、パーソナル・コンピュータって言葉が生まれたころは、コミュニケーションツールじゃなかったわけよ、パソコンは。パソコンという一つの箱の中に、自分の世界を吹き込むんだ、という対象のもので、もっと閉じた世界でミクロコスモスだったわけ。

:じゃあ、なぜパーソナル・コンピュータという名前が付いたのか。

小田嶋:コンピュータというものは、そもそもパーソナルなものではなくて、大学の研究室にあるでかいビル1個分ほどのものだったわけ。それが、パーソナルに、つまり個人でも持てるようになったんだよ、という驚きがそこにあったんだよ。

:ということは、パーソナルって個性のことじゃないんだ。

小田嶋:個性のことじゃない。個人用ということ。本来、パーソナルじゃないものがパーソナルになった、というのは、いってみればパーソナル原子力発電所みたいな、えっ、家庭用原発ができちゃったの!? というような驚きですよ。

岡康道氏と小田嶋隆氏

:用途としてはどうなるの?

小田嶋:グーグルとかの検索だろうね。

:一家に物知り博士がいる、ということか。

小田嶋:そうだね。

:そこの窓を開けると、小田嶋みたいなヤツがいる、と。ふーん。広告にしても、ウェブにしても、僕にはまだまだ謎がいっぱいあるんだよ。

どうでしょう。次回のテーマは、岡さん、小田嶋さんが、互いの仕事、作品を事前に検討して、それぞれのフィールドに対する批評や感想を交し合うというのは。

:いいね。

小田嶋:ここらでちょっと対談の目先を変えないとね。


 ということで、次回、ちょっと面白い企画に続く。

(ひと息入れます。暖かい励ましのお言葉の数々、いつもありがとうございます)

撮影協力 : Cafe 杏奴

※当時は東京都豊島区のお店でしたが、現在はリンク先に移転されています

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