:いや、もっと乗ってたよ。だって俺、就職しても乗っていたもん。

小田嶋:そうだったのか。

:そうしたら後ろのドアが閉まらなくなって。

小田嶋:ああ。

:で、ひもとひもをこう、ぴんと張って、ドアを縛り付けて。

小田嶋:あと昔はチョークがないとエンジンが掛からなかった。そのチョークのレバーが折れていてさ。ペンチで引っ張りながらエンジンかけていたよね。

:ラジオはFENしか鳴らない。かっこいいでしょう。

NHK第2じゃなくてよかったですね。

小田嶋:箱スカだとか言うとかっこいいような感じだけどさ、結構がたがたの車だったよ。

:だって、最後に何で手放したかというと、床が抜けちゃったから。部分的なんだけど、床が腐ってきて、それで、雨の日に走ったりすると足元がぐちょぐちょになっちゃって、もうこれはあり得ない、と。

車に乗っているのに足元が濡れてしまうというのは、不可思議ですよね。

:最後にもう、どうしようもなくなって、ガソリンスタンドに行った時に、そこの兄ちゃんが、いい車ですね、と言ってきたから、あげようか、って返したんだよ。そうしたら、本当ですかって目を輝かせて(笑)。だから、そのまま置いてきたよ。

いい話ですね。

コラムニスト 小田嶋隆氏

小田嶋:ハワード・ヒューズみたいだな。

:だいたい小田嶋はマージャンが打てるけども、小田嶋からマージャンをやろうと言ったことは一度もなかったよね。

小田嶋:俺は理想の雀士といわれていた。弱い、明るい、速い、という。

:まずさ、実家があるというやつというのからは、基本的にいくら取っても平気なわけです。だって食えるんだから。でも、こっちはものすごい状況でマージャンをやってるわけ。実家はないし、仕送りだってないんだよ。これは負けるわけがない。

小田嶋:階級闘争の一環だとか言って。仲間も何となくだけど、まあ、岡が勝つのはしょうがないか、俺は家もあるし、親もいるしな、みたいなムードがあったわけです。

:でもスカGにしても、厳しかったんだよ。ただ勝てばいいというものじゃないんだもん。小田嶋から取らなければいけないでしょう。それで俺は何とか小田嶋をマージャンに呼び込みたい。だから目標設定から半年はかかったよね。そういえば、親は何も言わなかったの? 

どうしたの、最近、岡君が運転しているみたいだけど、って。

小田嶋:あれはどういう処理をしたんだろう? うちはそういうところは結構ルーズだったから。

:それで思い出したんだけど、俺は卒論も5万円で買ったんだよね。

一同:(出たよ。)

お金あげるからやってほしい

:それは小田嶋からではないよ、当然のことながら。ナカノという、今、弁護士になっているやつからね。僕と同じ学部にノハラというやつがいて、そいつと二人で、もうだめだ、こんな多くの字なんて書けるわけがない、という話になって、司法試験の勉強をしていたナカノ君に、きみ、アルバイトしない? と話を持ちかけて。5万×2人で10万はでかいだろう、と。

ナカノ君の卒論は大丈夫だったんですか。

:ナカノ君はもう書いていたんだよ。自分のはもう書いちゃっているから、ということで、ナカノは期日までにあと2本、本当に書いてきた。その時、ノハラは字がきれいなほうをさっと取ったわけ。それで俺は、いいや別にどうでも、と思って汚い方を取った。そうしたら俺の方が優だったという。

大きなつづらと小さなつづらですね。

:そうそう。金の斧と鉄の斧みたいな。

小田嶋:当時は金を出してもいい、というぐらいの気持ちだったよね、卒論というものは。400字の原稿用紙80枚に字を書くというのは、労力としてあり得なかった。

:小田嶋は卒論、何だったの?

小田嶋:俺は大衆社会と何とか、みたいな社会学だったのよ。ほら、文章って、書いているうちに自分の方が少し賢くなっていく部分があって、50枚目ぐらいのところでようやく、ああ、俺、本当はこっちを書きたかったんだよ、というふうになるじゃない。でも、すでに書いた40枚もの原稿を捨てられないでしょう。

:捨てられませんよ。

小田嶋:だから最終的に、もう話にならないようなものになるんだよ。ワープロがあれば、先に戻って、じゃあここはこう直して、ということもあるかもしれないけど。でも、パソコンがこれだけ普及した今というのは、逆にものすごくハードルが高くなっちゃったということだから、手書きの時代で、まだよかったのかもしれないと思うんだけど。

:どういうふうにハードルが高くなったの?

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