:すごいよね。

小田嶋:たまらないですよ、あれ。

:でもシルバーマーケットというものに対しては、僕はちょっと違う感じ方をしていて。今までの広告制作者はシルバーマーケットって、まったくやったことがないんです。現に僕らは入社した時から、若いやつを揺さぶれ、と言われてきた。そうすると、40歳になっても50歳になっても、若い世代に届くのが能力だ、みたいになっちゃって。考えてみると、60歳以上をターゲットにした広告作りなんていうことは教わったこともなければ、前例もないわけだよ。

小田嶋:実に投げやりに作られているよ。

:反対に言えば、60歳、70歳に届く広告を作ることが、俺たちにとってはチャレンジングなことなんじゃないか、と思っていたりするんだよね、だから。

小田嶋:でもさ、今、すごくダウンビートに作っているよ。見た方が幸せになれないように。

:僕はやりようがあると思うんだよ。入れ歯安定剤だろうが紙おむつだろうが。

小田嶋:そうね。やればできるのに。

:でも、仕事が来ないんだよね。

小田嶋:「水戸黄門」なんか番組はいいんだけど、再放送だと間の広告がもう本当に。墓地でしょう。入れ歯安定剤でしょう。尿漏れパンツでしょう。

:まあ、それらは、取り立ててCMに工夫しなくとも、ニーズがあるから、ということで作られているのかもしれないけれど。

小田嶋:一番寂しいのは、プロ野球の広告にそれが出てきたことだよ。昔はでかいビール会社と、あと車と化粧品だったのに。

:そうだね。資生堂、トヨタ、サントリー、と、花形企業がしのぎを削って出ていたよね、ナイターというのは。

小田嶋:いつか見てたらね、東京なのに福岡のマンションの広告が出てきたのね。あれはなめた姿だよね。どうして俺が福岡のマンションを買うのよ。

:投資型ということもあるんじゃないの。

小田嶋:いや、福岡地区で売れ残ったから、そのまま東京地区でも流しちゃったのかな、という雰囲気でしたよ。それと、結構な時間帯にテイチクの演歌だとかね。それって深夜のお約束じゃなかったっけ、とびっくりしたよ。

:景気がよく、時代が大らかだったころはクライアントの方も大らかだったから。いい加減といえばいい加減なんだけど、そんなに言うんだったらいいですよ、付き合いで日テレの巨人-ヤクルトも提供しますよ、みたいな成り行きでスポンサーががんがん付いていたから。今はどこも厳しくなって、この番組は視聴率何パーセントで価値がないから切る、とかいうことをきちんとやりだした。そうしたら結構すかすかになっちゃったんだよ。

小田嶋:F1層は誰も見てないから、とかいう話になっちゃうんだよね。

:そうすると、ともかく枠を埋めなきゃいけない。埋めるためにはもう手段を選べないわけですよ。

小田嶋:かくして入れ歯安定剤が入ってくる、と。でも入れ歯安定剤は、まだ高級な方です。ただ、さすがに墓地にはちょっとまいったよね。

きちんと理屈を通そうとすると、ヤバくなっていく皮肉

:昔は墓地の広告は断っていたもんね、テレビ局が。それから今、目立つのはパチンコだよね。パチンコの店の広告はしちゃいけないという法律があるんだけど、台ならいいということで、すごい数だよね、あの台の広告は。

小田嶋:でも、あれも末期的症状ではあるんでしょう。パチンコ屋は今すごい勢いでつぶれているらしいですからね。

:つぶれているの?

小田嶋:うん。パチ屋は、テレビで断末魔をやっている部分だと思うんですよ。

いわゆる「5号機規制」というもので射幸性をぐっと下げられ、ほぼ時を同じくして、消費者金融がグレー金利を追及されたりして、おかげで、金を借りてパチンコに行く人々の数が一気に落ちたそうです。

(くわしくは日経ビジネス2007年12月24日号特集「パチンコ大異変 日本発もう1つのサブプライム」を。プレミアム会員の方は記事を直接お読みいただけます※現在リンクは切れています)

:でも、消費者金融から金借りてまでパチンコ屋に行くような人々は、やらない方がいいに決まってるよね。金を借りてまでやるようなものじゃない。

小田嶋:射幸性が落ちてパチンコ人口が減ったというけれども、でもパチンコは、私なんかが高校生のころから通年で見ると、昔はかなり健全なレジャーだったよ。俺は高校生のころパチンコをやってたけど、逆に言えばつまり高校生が遊べた、ということだよ。パチンコ屋に行って1日で3000円すっちまったぁ、とか言って大騒ぎしていたもの。

:3000円するのは高校生にとって大事件だよ。

小田嶋:そう。だけど3000円するのに丸1日かかったんですよ。だいたい500円ぐらいで出たり引っ込んだりしながら2時間ぐらいつぶせたりしていた。だけど、今のパチンコって500円とかって瞬時でしょう。

:十数秒だよね。

小田嶋:俺も今は1年に1度ぐらいしかやらないけど、1万円とかがすっと消えていく。だからまったく違うものになったんだろうね。あれはスロットが入ってからかな。

:確かに。スロット以前は、勝ったにしても、あまりお金に換えるものじゃなくて、たばこを20個取ったよ、とか、そういう牧歌的な世界だったよね。

小田嶋:今は5万円負けたとか、10万円勝ったとか、そういうことを言って、明らかにひどいギャンブルになっちゃっていますよね。客の数が減っているんだけど、客単価がものすごい上がって、普通の人たちは行かない、ちょっとやばい人たちだけが集まる場所になっちゃって。

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