本記事は2008年3月7日に「日経ビジネスオンライン」の「人生の諸問題」に掲載されたものです。語り手の岡 康道さんが2020年7月31日にお亡くなりになり、追悼の意を込めて、再掲載させていただきました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

(日経ビジネス電子版編集部)

テレビ、新聞、雑誌、ラジオの「広告4大媒体」が沈むなかで、インターネットという新興媒体の力が年々、大きく浮上している。電通による2007年の国内広告費調査では、インターネット媒体の広告費がついに雑誌を抜き、テレビ、新聞に次ぐ位置を占めた(「2007年 日本の広告費」)。この事態は広告だけに限らず、世の中のクリエイティビティを刺激することになるのだろうか。

(ウェブとテレビ広告費の関係などの話題が始まった、前回から読む)

小田嶋:広告みたいな大掛かりなものから、単なる文字を書きます、みたいな仕事まで含めて、物を作ることへの対価というのは、ずいぶんあいまいだよね。仮に、テレビとウェブとで同じものを作ったとしても、慣例からテレビはたっぷり予算を取りますけれど、ウェブはその10分の1です、というのは何というか、困る事態だろうね、岡のような広告をやる人には。

:そうなんだよ。逆にいえば、ウェブが出てきて明確になったわけだよね。予算はないけど、非常に重要なものが、今、ここにある、と。でも、企業はそこにかける予算がない、と。確かに、本当になさそうなんだよ。

小田嶋:そう、去年までなかったものだからね。何か前例がないと次が出てこないというのは、予算の神秘だよね。

クリエイティブディレクター 岡 康道氏

クリエイティブディレクター 岡 康道氏 (写真:大槻 純一、撮影協力:「Cafe 杏奴」※当時は東京都豊島区のお店でしたが、現在はリンク先に移転されています)

:その点は役所も企業も同じでね。

小田嶋:この間、何かで読んだかしたんだけど、発光ダイオードが信号機に使われるようになって、すごく長持ちするようになったんだって。でも日本は発明した国でありながら、発光ダイオードの信号機の普及率がすごく低いらしいんだよ。旧来の信号機が相変わらず全然残っている。

:でもその発光なんとかに変えたらいいことはたくさんあるわけでしょう。

小田嶋:だって電気代は安いし、ランプは長持ちするし。でも役所的には去年まで取り引きしているのが旧来の信号機メーカーであったりして、予算はそれに付くわけだから、新しい信号機に更新されないの。それと、業者的にも、球が定期的に切れないと、儲からなかったりして。

そういった既得権は、広告の場合は大手代理店が持っている地上波テレビの「枠」ですよね。地デジになると、その既得権はどうなるのでしょうか。

:変わらないでしょうね。というのは、テレビ局の収益というものはその時間の提供スポンサーによるわけじゃないですか。番組を1本作ろうと思ったら、その番組を提供するスポンサーというのを確保する必要があるわけですよ。で、それはやっぱり、テレビ局がいちいち回って確保できるものじゃないから、電通とかが連れてくるわけですね、スポンサーを。

小田嶋:代理店が強いから。

:必ずどこかの人たちを連れてくると思うんですよ。安ければ安いなりに、今まで予算不足などでテレビCMを打てなかった企業に、ついにみなさんもテレビCMが打てるような時代が来ましたよ、この番組だったら……と。

小田嶋:ターゲットマーケティングができているんだから、ということで。

:そう。効率はいいですよと言って、たぶんお金を出させる。でも、そうやって作る番組や、そこで流す広告というのは、制作費自体が自然と安いものになっていきます。すでに今、日本のキー局で流れているテレビCMは、僕らが作っているものでも、だいたい欧米なんかで見るカンヌ国際広告祭レベルのものの、3分の1の制作費で作っているんですよ。

日本のCM制作費は、世界レベルの3割!?

コラムニスト 小田嶋隆氏

コラムニスト 小田嶋隆氏

小田嶋:そんなものなの?

:そうそう。理由の1つは日本のテレビCMは、日本国内でしか流れないから、というのがある。向こうは何カ国も同時に流すから。

小田嶋:ロナウドが出ているようなやつだ。

(おそらく、岡さんが嘆息したときに思い浮かべたであろうアディダスのCMを制作したクリエイティブエージェンシーの記事は、こちら→「映画級の予算で、子供心を動かす広告を作る~アンディ・ファクレル/180 アムステルダム」※現在リンクは切れています)

:ああいうことって、日本語オンリーだったらあり得ないじゃない?

小田嶋:あり得ないだろうね。

:ね。アディダスとか、ナイキなんかは、日本の10倍ぐらいの予算をかけているんだけど、でもたとえば40カ国で流しているから元は取っているんですよ。じゃあ日本のクライアントが僕たちにそういう要求を出したことが一度でもあるか、というと、日本と韓国の2カ国で流す、ということすらない。

小田嶋:いいんじゃないの、外人には分からなくてもさあ、外人はターゲットじゃないんだから、と、そういうことでしょう。

:そうすると俺たちってさ、世界とかカンヌとかで見ると、相当貧しい国だなと。色も天気も、(天気待ちをする余裕もなくて)こんなんで撮っちゃっているの? とか、SMAPを起用したとしても、この日本の青年たちは誰? みたいなことが世界の感想なわけです。それがもっと進むでしょうね。

小田嶋:むかつくね。

:むかつくでしょう。

小田嶋:そうするとさ、全体がだんだん入れ歯安定剤みたいな感じの広告になってきて。

:うん、なっていくと思うよ。

小田嶋:昼間テレビを見ていると、入れ歯安定剤、大人用紙おむつ、そういう老後商品のやつがものすごく多い。それか、抗老化化粧品とか。

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