「日経ビジネス電子版」の人気連載コラムニスト、小田嶋隆さんと、高校時代の級友、故・岡康道さん、そして清野由美さんの掛け合いによる連載「人生の諸問題」。「もう一度読みたい」とのリクエストにお応えしまして、第1回から掲載いたします。初出は以下のお知らせにございます。(以下は2020年の、最初の再掲載時のお知らせです。岡さんへの追悼記事も、ぜひお読みください)

 本記事は2007年12月21日に「日経ビジネスオンライン」の「人生の諸問題」に掲載されたものです。語り手の岡 康道さんが2020年7月31日にお亡くなりになり、追悼の意を込めて、再掲載させていただきました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

(日経ビジネス電子版編集部)

前回から読む)

今日は懸案だった「概念としてのセカンドライフ」(第4回『「受験」と「恋愛」と「デニーズ」と』参照)を、いよいよ語っていただこうと思います。そもそもなぜ、岡さんから「セカンドライフ」というキーワードが出たのでしょうか。

:前にも言ったけど、今、ネット上で話題になっているセカンドライフ、あれについては僕は全然分からないんです。それは首都大学東京と同じぐらい分からない(前回参照)。分からないんだけど、ここではないどこかへ、というような概念には惹かれるものがあるんですよね。

小田嶋:GLAYのヒット曲にあるね。「ここではない、どこかへ」。

:だいたい、人生って15歳ぐらいで分かるよね。ああ、俺って平凡なんだなって。

小田嶋:そうなんだ。

クリエイティブディレクター 岡 康道氏

クリエイティブディレクター 岡 康道氏 (写真:大槻 純一、撮影協力:「東京目白・花想容(かそうよう)」※当時は東京目白のお店でしたが、現在はリンク先に移転されています)

:そうじゃない? だって天才は、もうそのころには非凡でしょう。

小田嶋:いや、あらゆる面で非凡なやつなんてきっといないからさ。どうなんだろうな。

:いや、でも何一つ非凡ではない、ということが自分では分かるじゃない。

小田嶋:自分ではなかなか分からないんじゃないかな、それは。

:それでも、なんか、うすうす分かっちゃったな、俺は。俺って大したことないな、というのがね。

絶望感の理由、のんきさのワケ

小田嶋:というか、岡が目指していたところの能力と、持っていた能力が少し違っていたということだと思うよ。

:なんかそのころが人生で一番つらかったというか。言いようのない絶望感、何をやってもだめなんだなという気分に、15歳の僕は染まっていた。

小田嶋:俺なんかは、自分の能力がどうだということを考えたことはあまりないけど、何だかつらかった、ということは覚えがあるよ。ただ、何でつらかったのかは全然分からないよね。外から見て幸せそうに見える時期と最悪な時期ってあるけれど、本人の自覚ってそれとは全然関係なかったりする、ということは分かる。

:10代のころの絶望感というのは、やりきれないような感じだよ。

小田嶋:そう。10代というのはひどい絶望感があるね。特に大学に入った年なんていうのは、大学には受かっているわけだし、小遣いもそこそこもらっていて、親の車で学校とかに通って、女の子とデートしたりして、もう何不自由ないという感じじゃない? スペック的には。でも、実はそういう時が一番暗い気持ちで生きていた時だったりする。なぜ暗いのかよく分からないんだけど、死のうかな、とか思いながら生きていたね、僕なんかでも。

:今もそうなのかね。若いやつらは、青春時代というものに対して、昔みたいなことを感じているのだろうか。

小田嶋:やっぱりそうなんじゃない? 俺たちから見ると羨ましいなと思うような10代、20代のやつでも、本人はすごくつらかったりしているんじゃないかな。逆に、俺の場合は大学を出てぶらぶらと失業者を7~8年やっていて、もうすぐ30歳になる、と。週休5日ぐらい、年収100万円ぐらいでやっているわけで、普通、外から見るとひどいことじゃない? 

:真っ暗な感じだな(笑)。

小田嶋:でも、とても真っ暗なんじゃないかと思いきや、本人は比較的のんきに生きているわけ。ま、実際、のんきじゃなきゃそんな暮らしはできないけど。

:そりゃ、そうだ。

小田嶋:そうそう。わりと気楽に、何とかなるんじゃないの~、ぐらいな感じでやっていたりするんだよ、そういう時期というのは。

:僕も親が破産して失踪した時が一番つらかったわけじゃ全然ないな。

小田嶋:端から見ればつらそうだけどな。

:いや、端から見たらあの時こそが一番ひどいはずだけど。

小田嶋:岡、大丈夫か、という感じだったけど。

フルカウントの日々

:でも、本人としては、「人生の本番」が始まったようなところってあるでしょう。だから面白かったですよ。

面白かったですか。

:それも、振り返れば面白かった、というのではなくて、本当に面白かったんだ。だって、あんなに緊張して興奮している日々というのは普通はないわけだからね。アドレナリンが汗のように出たんじゃないかな。

小田嶋:追い込まれてツースリーで。

:もう毎日がツースリー。しびれるよね、次の1球は。だから、大学の時は結局は楽しかったわけ。現実的な問題で追い詰められている時って、憂鬱どころじゃないんだよ。その意味でいうと、むしろ高校の時の方が余裕があったから。

小田嶋:俺もそうだった。受験期なんていうのはある意味一番きついんだけど、ものを考える暇がないから。勉強ばかりしているから、危ないのはそれが取れた時だよね。

:スルーしちゃった時。

小田嶋:うん。そうすると、いろいろ考える時間ができる。すると、余計なことを考えて。

:だけど受験期も俺たちは勉強してないふりをしてたのよ。今は、あのころは勉強してました、と正直に言っているんだけど(笑)。小田嶋も、絶対にそうだったはずだよ。

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