小田嶋:本来優秀な人間を、そういうふうにスポイルしちゃうシステムが日本にはあるのかもしれないね。だって、アメリカだとロースクールもメディカルスクールも専門学校だから、1回、普通の人として大学を出てからじゃないと受けられないというじゃない。
岡:ロースクールが登場したとはいっても、日本ではその道は、まだ全然整備されていないものね。
小田嶋:医者を目指すやつでも、弁護士を目指すやつでも、目指す段階で、俺はいわゆる社会生活の中で人と交渉したり、頭を下げたり、協力したりして生きていくんじゃなくて、資格でもって有無を言わさずやっつけていくんだ、みたいな世界観を持っていると思うんだよ。俺なんかもそういう世界観をちょっと持っていて、なるべくだったら印籠みたいな資格でもって、恐れ入ったか、みたいにやっていきたいわけだよ、本当はね。
なければ、作ってしまいましょうか
岡:でも、俺たち、何の資格もないもんね。車の免許証以外ないでしょう。
小田嶋:だから、ものを書く人間の世界でも、本来優秀な人が、賞とかをもらっちゃって偉い人になっちゃって、変な人になっていくというのはあるよね。30歳代とかだと、人間って仕事で評価されるのよ。だけど、40歳代、50歳代とかになってくると、いい仕事をしていればそれはそれでいいんだけど、どこか、どういう賞を持っているんですか、みたいなことで評価されるようになっていったりもしてね。
岡:それは物書きに限らず、ビジネスマンでも何でも、最後に国からとか、天皇からとかからもらう勲章に、すごく固執していくじゃない。
小田嶋:ああ、あれは不思議だよねえ。
岡:不思議だよ。しかも心から本当に欲しがっているんだよ。
小田嶋:俺も賞なんて欲しいと思ったことは今まで一遍もないけど、この年になると欲しいと思うよね。
岡:なんか、言ってることがおかしくないか。
小田嶋:いや、別に賞があったらどうだ、なんていうことは本人としては何もないんだけど、特に親戚であったりとか、初対面のどうでもいいおばちゃんであったりとかに接する時に、一般の人は賞でしか人間を見てなかったりするな、ということに気がついてくるのよ、だんだん。だいいち、俺の書いた原稿を読んいるやつなんて100人のうち1人くらいしかいないわけだから、残りの99人にとっては何とか賞の人です、みたいなことの方の全然説得力があるでしょう。
だから、どんなくだらない賞でもいいから1つもらいたいな、というのはあるよね。自分で作ろうかな、と思うもん。今のところ看板としては出た大学しかないから、日経ビジネス・オンライン何とか賞とか作ってくださいよ。賞金3000円でもいいからさ。
分かりました。賞金は図書券でいいですか。
岡:その点、広告屋は互助会みたくなっていて賞の数はものすごくたくさんあるから、普通にやっていれば40歳過ぎで、いくつかの賞は手に入っている、ということになっているんだよ。
小田嶋:いや、でも、岡のもらっている賞はなかなか立派な賞だからさ。
岡:いやいや。広告は文筆の世界とは違うすそ野の広さだよ、賞に関してはね。
小田嶋:賞に関しては、広告業界に限らないけど、あげる方も、もらう方もメリットがあるみたいな賞の作り方ってあるでしょう。ベストジーニスト賞とか、何とかジュエリー賞とか、あげる方ももらう方も、それを記事にするやつらも全員ウイン・ウインの。
岡:広告屋も賞を持っているのが10人程度だと、クライアントもなかなかその10人に当たるということはないけれども、それが100人になると、うちはこういう賞をもらっている人に作ってもらえるから、ということで安心して、思い切って広告費を投げ出せることがあるよね。こっちも、みんながよくなるウイン・ウインだな、いわば。
小田嶋:ある種の会社で課長だらけ、というみたいなことに近いでしょう。
ニューヨークの罠
岡:そうだと思うよ。俺、ニューヨークADC会員なんだけれど、ニューヨークでしかもADCと続くでしょう。ADCというのはアートディレクション何とかの略だからさ、ものすごい難しそうじゃない? でも何でそうなのかというと、それはある時ニューヨークADCの審査員をやったからなんだよ。1回やると、僕はそのニューヨークADCの賞なんか取ったこともないのに、自動的に会員になっているわけ。しかも、もう少し調べたら、どうやらあれは会費さえ払えば誰でもなれるらしいんだよ。
小田嶋:俺もなれるのか。
岡:なれるんだよ。
アメリカのある種の大学の学位みたいですね。
岡:それ、誰も知らないんだけどさ。ニューヨークADC会員って日本に10人はいないから、だから、ものすごく価値がある。
小田嶋:それ、名刺に刷っておくと、田舎の講演ぐらいはできちゃうということだな。
岡:できちゃうんじゃないの、だってニューヨークADCだよ。
小田嶋:そうだよね。
知らなかった。知らないで岡さんのプロフィールに載せていました。
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