小田嶋:ということは、それって残業は付けないで残業しようということですか、みたいなことを言う俺って、ヘンリー・フォンダと同じことを言っているんだな、と。
岡:ヘンリー・フォンダだったんだ、小田嶋は。
小田嶋:ところが日本でヘンリー・フォンダをやると、もうすごい浮いちゃうという。
岡:もう最低。でも、あのアメリカですら、12人に1人ぐらいの割合でしか本質的なことを言う人なんかいない、っていうことでもあるよね、あの映画は。
小田嶋:アメリカですら、後の11人は、まあ、いいじゃねえかという。
岡:そうだよ。野球に行きたかったやつもいたでしょう。早く終わらないといけないって。
小田嶋:早く終わって野球に行きたいんだから、いいよ、有罪にしようぜ、みたいな。
ということは、小田嶋さんが裁判員になるというのは被告にとっては、かなりラッキーなことなのでは。
小田嶋:俺は自分のことだから言ったけど、人の判決だったら大勢に付くよ、やっぱり。レッズの試合が始まる、冗談じゃないよ、って。
米国のヒーローの辿る道
アメフトのO・J・シンプソンは無罪になりましたね。
岡:長嶋茂雄みたいな人だからね。長嶋さんは有罪にはできないでしょう。
小田嶋:ただ民事は有罪になったんだけどね。まあ、やっぱりステロイドとかいろいろ妙な薬が入っちゃっている人だから。この間も強盗をやって、また捕まったよね。
岡:えっ、O・Jが?
小田嶋:そう。しかも盗んだものが自分のサインか何かなんだよ。盗まれたやつはO・Jの大ファンだから、「くれと言えばあげたのに」と言ったという。
岡:悲しいね。

小田嶋:でも、アメリカ人のヒーローって、最後そうなるやつが多いね。何であの国のヒーローの末路はああなんだろう?
さっきの亀田兄弟とかと似た構図が社会全体にあるのでしょうか。
小田嶋:いや、向こうはむしろ自壊していく感じですよね。例えばトム・クルーズとかも、結局はカルトにハマっていっちゃった、みたいになっているでしょう。
岡:うーん。
小田嶋:ね、O・J・シンプソンって東国原に似ているよね、ちょっと。それと、岡のアメフトの先輩で、OLと付き合っていたからOLシンプソン、と呼ばれていた人がいたよね、確か。
岡:OLシンプソンね。……くだらないね、今、思い出しても。
小田嶋:裁判員じゃないけどさ、岡の親父さんが倒産した時に弁護士が付いて、その弁護士に、岡くん、司法試験を受けろ、と説得されて、一瞬受ける気になっていたじゃない。
岡:なってた、なってた。タケウチ弁護士って人だよ。
小田嶋:その時の受け売りだけど、弁護士なんかバカばかりで、あんなものは勉強をごりごりやれば誰だってなれるんだ、君なら必ずできるからやりなさい、と言われていただろう。
岡:確かにそれでその気になっていた(笑)。
小田嶋:俺、大人になってから弁護士という人たちと何人か知り合ったけど、やっぱり弁護士って、今、テレビに出ている人たちも含めて、変な人ばかりだよね。社会性ないよ、あの人たち。
岡:だって大学の4年間か長ければ10年ぐらいにわたって、社会との関係を絶つということが容易にできた人たちなんだからさ、もともと社会との関係が希薄なんだよね。
小田嶋:あと、仮に頭がいいんだとしても、普通、頭がいいやつは人と話ができるのよ。人とコミュニケーションが取れてうまくやれるわけなの。それができないやつが弁護士を目指すんだよ。人に頭を下げられないとか、人の話を聞くのが面倒くさいとか、俺は俺だとか、プライドが高過ぎるとか、そういう変なやつ。
お話をうかがっていると、なぜお2人が弁護士にならなかったのかな、とも。
小田嶋:……。本当だね。私らもだからもう少し頭がよければ弁護士だったかも。
岡:おまけに頭が悪かった、ということか。俺たちは。
小田嶋:もう少しこれがあればね。だって俺も弁護士を目指そうと思ったことがあるもん。
岡:おいおい、話が違うじゃないか。
小田嶋:俺って丸暗記得意だからできるんじゃないかと思った。
法律家になると苦手になるものは?
岡:いや、行けないよ。だってさ、俺、その時は確かに一瞬、ちゃんとやってみようかなと思ったんだけど、六法ってあるでしょう。小六法というのがあって、小型になっているものをみんな授業に持っていくんだけど、あの文章がね、分かりにくいというよりも汚らしい。美しくないんだよ、文章として。
小田嶋:岡は美文にこだわるからね。
岡:美しくない、と思うと読めないじゃない? 読めないと勉強が進まないから次に『口語六法』という本を買ったんだよ。それには「主婦のために」とキャッチが付いていたんだけど、つまりは話し言葉で書いてある。で、これは分かりやすい。ただ分かりやすいけど、試験の時に使えない。話し言葉は法律の文章じゃないから。
小田嶋:それはすごくいいところを突いていると思う。俺の友達で結局、弁理士になったやつがいるんだけど、そいつは本来文章を書ける人間だった。だけど、弁理士になってから何かの時に原稿を依頼したら、ひどい文章を書いてきて、驚いた。法律家ってすごく文章が悪くなるんだよ。
岡:悪くなるさ。
小田嶋:あえて分かりにくく書くみたいなところが彼らの中にはあって、1つのことを説明するのに論理的に書かないで、変な用語を使うんだよ、わざと。そいつの文章がまさしくそうできちゃっていてね。
岡:でもそれが彼らの中では美しいというか、そんなに違和感がないということだろう?
小田嶋:違和感がないというよりも、専門性を維持するためにあえて分かりにくくしているところがあると思う。欠陥と言えばいいのをわざわざ瑕疵と言ったりするでしょう。瑕疵という言葉を使うと普通の人は分からないじゃない。欠陥とか不良品とか、分かりやすい言い換えはいくらでもできるのに、それを絶対しないんだよ、彼らは。
岡:でも、あまり儲かってない弁護士の中には、話ができる人たちもいる。ただし、やっぱり売れてる弁護士というのはだいたい気持ち悪いやつになっているんだよな。同級生たちの多くは弁護士だから、僕は何人も知っているけど、不思議なことだよ。
小田嶋:弁護士になっちゃうと、結局、先生、先生みたいなことになってしまうから、いろいろな無茶を言っても、おっしゃる通りで、みたいにまかり通っていくことで人間、曲がっていくというところが少しあるでしょう。
岡:医者もかなり変だとは言うけどね。医者だって、医学部に受かるということ自体がさ、高校3年間、浪人2年間、医学部5年間を遮断しなければ無理だからね。
Powered by リゾーム?